コンビニでジュースを買うときの値段、アルバイトの時給、将来の就職先の給料――。
実はこれらはすべて「経済成長」とつながっています。
経済が成長しているときには仕事が増え、人々の生活が豊かになりますが、逆に経済が停滞すると給料や物価の動きにも影響が出てきます。
「経済成長」という言葉はニュースでよく耳にするけれど、実際には何を意味しているのでしょうか。
この記事では、「日本の経済成長の歴史」から「名目GDPと実質GDPが表す意味」まで、高校生にもわかりやすく解説していきます。学び直しの社会人の皆さんにももちろんおすすめです!
経済成長
「経済成長」という言葉を耳にすると、なんだかワクワクする人もいるのではないでしょうか。
経済は社会全体のお金や産業の流れを指しますが、それが「成長する」となると、未来に希望が持てるような響きを感じます。もちろん、現実の経済は良いときばかりではなく、不景気と呼ばれる停滞や後退の時期もあります。それでも「成長」という言葉には、人を前向きにさせる力があります。
経済成長の意味
では、経済成長とは具体的に何を意味するのでしょうか。
ひとことで言えば、経済活動の規模が拡大することです。たとえば、町に新しい工場ができて雇用が増えることや、技術が進歩して生産効率が高まること、教育を受けて労働者の能力が向上することなどは、すべて経済成長の要因です。
成長を支える要因は大きく分けて次のように整理できます。資本の蓄積(工場や道路といったインフラが整うこと)、技術革新(新しい機械や方法が開発されること)、教育による能力向上(人材が育ち、生産性が上がること)、そして政治の安定(安心して企業活動ができる環境があること)。これらが重なり合って、国全体の経済規模は拡大していくのです。
日本の高度経済成長期
日本の歴史を振り返ると、特に西暦1955年(昭和30年)から西暦1973年(昭和48年)までの約20年間は「高度経済成長期」と呼ばれます。この時期、日本は毎年10%前後という驚異的な成長率を続けました。現在の高校生にとって想像しづらいかもしれませんが、まるでスマホが毎年倍のスピードで進化していくような勢いで、社会全体が拡大していったのです。
この高度経済成長期には、新幹線の開通や東京オリンピック(西暦1964年=昭和39年)といった象徴的な出来事も重なりました。工業製品が大量に生産され、日本は「世界の工場」として急速に国際競争力を高めていきました。
安定成長期への移行
しかし、いつまでも二桁成長を続けることはできません。西暦1973年(昭和48年)の第一次オイルショックをきっかけに、日本は「安定成長期」へと移行します。ここでは年3~4%程度の成長が続き、経済は成熟段階に入っていきました。
それでも、今の日本から見れば、当時の3~4%という数字は決して低いものではなく、むしろ安定的な発展を意味していました。
マイナス成長という現象
とはいえ、経済成長がいつもプラスであるわけではありません。
実際に日本は西暦1974年(昭和49年)、西暦1998年(平成10年)、西暦2009年(平成21年)、西暦2011年(平成23年)などで「マイナス成長」を経験しています。ここでいう「マイナス成長」とは、単に前年よりも経済の規模が小さくなったことを指します。プラス成長が「伸びる」状態であるのに対して、マイナス成長は「縮む」状態なのです。言葉の響きは少し矛盾しているように聞こえますが、経済学ではそう表現します。
例えば、西暦2008年(平成20年)のリーマンショックは、世界同時の金融危機を引き起こし、日本経済も大きな打撃を受けました。その翌年のマイナス成長は、まさに世界全体のつながりを感じさせるものでした。
経済成長率とは何か
ここまでで、「経済成長」とは経済の規模が拡大することだと説明しました。
では、そのスピードをどうやって測るのか。これが「経済成長率」です。通常は国内総生産(GDP)の対前年増加率で測定します。つまり、「去年と比べて、どれくらい経済が大きくなったか」を数値で表すものです。
国内総生産(GDP)の説明については以下のリンク先にくわしく説明してあります。
昔の日本ではGDPではなく国民総生産(GNP)という指標が使われていました。これは「国民がどこで稼いだか」に注目するもので、日本人が海外で稼いだ分は加え、逆に外国人が日本で稼いだ分は除外されていました。
しかし、国際的な人の移動が活発になると、「国内の生産」に注目した方が実態をつかみやすいと考えられ、西暦1993年(平成5年)からはGDPが正式に使われるようになったのです。
名目成長率と実質成長率
ここで注意が必要なのは、経済の成長を「そのままの値」で見るのか、「物価の変動を考慮して見るのか」という点です。
物価の変動を考慮しないのが「名目成長率」、物価変動を修正したのが「実質成長率」です。
例えば、ある年に1本100円のジュースを100本売ったとします。売上は1万円(100円×100本) です。翌年、同じく100本売ったのにジュースの値段が200円に上がったとしましょう。すると売上は2万円(200円×100本)になります。
このとき、名目GDPだけで見ると「売上が1万円から2万円に増えた=2倍になった!」と計算されます。これが名目成長率です。
でも実際には、売れた量は100本のままで、増えたのは「値段」だけです。つまり、経済全体の“ものの量”は増えていません。そこで「物価の上昇分」を取り除いて計算したのが実質GDPです。この例では、実質GDPは1万円のまま変わらない、ということになります。
こうやって考えると、名目GDPだけで「経済が成長している!」と喜ぶのは早計だと分かりますよね。実際の豊かさを見るには、物価の動きを修正した実質GDPを見る必要があるのです。
そのときに使われるのが「GDPデフレーター」と呼ばれる物価指数です。これは、GDP全体に含まれる財やサービスの値段が、どれくらい変化したかをまとめた“物価の平均点”のようなものです。
例えば、ある国でノートを100冊、ペンを200本生産したとしましょう。ある年はノート100円・ペン50円で合計2万円でしたが、翌年は数量は同じなのにノートが110円、ペンが55円に値上がりしたとします。
このとき、名目GDPは
ノート100冊×110円+ペン200本×55円=2万2000円
に増えますが、
実際には「ものの量」は増えていないので、実質GDPは、
ノート100冊×100円+ペン200本×50円=2万円のままです。
そこで「名目GDPを実質GDPに直すための調整係数」としてGDPデフレーターを計算します。式は次のようになります。
GDPデフレーター= 名目GDP ÷ 実質GDP × 100
この例だと、
2万2000 ÷ 2万 × 100 = 110
となり、物価が10%上がったことを意味します。
もし物価が変わらなければ100、下がれば90など100より小さい数値になります。
つまり、GDPデフレーターを使うことで、名目GDPを物価変動分だけ修正し、本当の成長=実質GDPを計算できるのです。
インフレとデフレにおける名目GDPと実質GDPの数値の関係
インフレーション(物価上昇)のときには、名目GDPが実質GDPより高く出る傾向があります。
逆に、デフレーション(物価下落)のときには、実質GDPが名目GDPより高く出ることが多いです。
なぜこうなるのでしょうか。
名目GDPは「その年の価格」で計算するので、値段が上がれば、同じ量でも自動的に数字が大きくなります。一方で実質GDPは「基準年(前年など)の価格」で計算するため、物価の変化は反映されず、「ものの量」が本当に増えたかどうかだけを映し出します。
ここで具体例を見てみましょう。
まずはインフレのケースです。
キャベツ1玉が100円から200円に値上がりし、売れた数は100玉のままだったとします。
- 名目GDP=200円×100玉=2万円
- 実質GDP=基準年(100円)×100玉=1万円
このとき名目GDPは2倍に増えていますが、実際には「売れた量」は変わっていないので、実質GDPは前年と同じです。つまり数字の上では経済が成長しているように見えても、豊かさが増したわけではありません。
次にデフレのケースです。
逆にキャベツ1玉が100円から50円に値下がりし、売れた数は100玉のままだったとしましょう。
- 名目GDP=50円×100玉=5000円
- 実質GDP=基準年(100円)×100玉=1万円
この場合、名目GDPは半分に減ってしまいますが、作られた量は変わっていません。そのため実質GDPでは前年と同じ数値となります。
つまり、デフレのときには、名目GDPだけを見ると「経済が縮んだ」と思いがちですが、実際には供給されている財やサービスの量は変わっていないこともあるのです。
一人当たりGDPの意味
もう一つ大切な指標が「国民一人当たりGDP」です。
これはGDPを人口で割った数値で、その国に住む人が平均的にどれくらいの豊かさを享受しているかを示します。
日本のGDPはかつてアメリカに次ぐ世界第2位でしたが、近年は中国やドイツに抜かれ、西暦2023年(令和5年)時点では世界第4位となっています。これは円安や人口減少の影響もあり、日本経済が相対的に縮小している現状を示しています。
一人当たりGDPについても、かつては世界で2位に入るほど高かったのに、現在はG7諸国の中で最下位水準にまで順位を落としています。
これは人口の多さや経済の伸び方の違いが反映された結果であり、「国全体のパワー」と「一人ひとりの豊かさ」が必ずしも一致しないことを示しています。
まとめ
経済成長はニュースの中だけの出来事ではなく、みなさんの将来と直接つながっています。
大学進学の学費、アルバイトの時給、就職したときの給料、さらには将来の生活水準
――これらはすべて経済がどのように成長しているかによって変わっていくのです。
名目GDPと実質GDPの違いを理解すれば、数字の裏にある「本当の豊かさ」を見抜けるようになります。そしてそれは、社会を批判的に見る力を育てるだけでなく、自分の未来をどう築いていくかを考えるヒントにもなります。
かつて世界第2位だった日本経済はいま第4位ですが、それを受け止めたうえで、「これからの時代をどう生きるか」を考えるのは、まさにこれから社会に出ていく高校生のみなさん自身です。


