今回は、日本国憲法第92条から第95条までに規定されている「地方自治」の条文をわかりやすくまとめてみました。
憲法条文シリーズは、試験でよく出そうな日本国憲法の条文を解説するシリーズです。
まずは問いに答えて、それから解説を読みます。
復習は、条文を音読し、間違えた場合は正解を覚えましょう。空欄のまま条文が読めるようになれば合格です。
日本国憲法第92条から第95条まで(穴埋め問題)
日本国憲法第92条
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、( )に基いて、法律でこれを定める。
日本国憲法第93条
- 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として( )を設置する。
- 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その( )が、直接これを選挙する。
日本国憲法第94条
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、( )内で( )を制定することができる。
日本国憲法第95条
一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その( )の投票においてその( )の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
日本国憲法第92条から第95条まで(解答)
日本国憲法第92条
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
日本国憲法第93条
- 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
- 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
日本国憲法第94条
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
日本国憲法第95条
一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
日本国憲法第92条から第95条まで(解説)
地方自治の条文は、大日本帝国憲法には規定が存在せず、現行憲法において新しく置かれました。
地方自治については、主に地方自治法という法律にくわしい規定が存在ます。
日本国憲法第92条 – 「地方自治の本旨」とは?
日本国憲法第92条において重要な文言は「地方自治の本旨」という言葉です。条文の穴埋めができるようにするだけでなく、その内容が大切です。
2つあります。
- 住民自治
- 団体自治
住民自治というのは、地方のことは地方に住んでいる住民の意思に任せておけばよいといった考え方のことを指します。このことは、憲法上では日本国憲法第93条で具体化されています。
団体自治というのは、国から独立した団体(地方公共団体のこと)が自分たちの責任のもとで政治を行っていくようにしましょうという考え方のことを言います。このことは、憲法上では日本国憲法第94条で具体化されています。
日本国憲法第93条 – 「地方公共団体の住民」とは?
地方公共団体には、地方議会や長(通常、市町村長や県知事のことをまとめて首長と言います)が置かれ、彼らは地方公共団体の住民から直接選ばれます。
「地方公共団体の住民」という文言を使って裁判に訴えた事案として有名なのが、「外国人の地方参政権」の最高裁判所の判例(最判平成7年2月28日民集第49巻2号639頁)です。
日本国憲法第93条第2項の「地方公共団体の住民」には「日本国民」と書いていないのだから「外国人に地方参政権が認められないのはおかしいのではないか?」と言うわけです。
教科書や学習参考書その他の憲法学の教科書だけを読んでいると、この判例の解説があまりに的外れなことが多いので、ちょっとだけくわしく解説します。
まずこの判例で一番のポイントは以下の部分です。なぜかこの部分がこれらの参考書には載っていないのです。
地方自治について定める憲法第八章は、九三条二項において、地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙するものと規定しているのであるが、前記の国民主権の原理及びこれに基づく憲法一五条一項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると、憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。
最判平成7年2月28日(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/525/052525_hanrei.pdf)
実は、教科書に載っている部分はこの文章の次のところを抜粋したものなのです。
憲法九三条二項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。
最判平成7年2月28日(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/525/052525_hanrei.pdf)
上の太字の部分は判決文全体から考えると、オマケみたいな話です。ただ、このオマケが大々的に載っているのが教科書や参考書や憲法学の多くの教科書だったりします。きっと本を書いている人は事実を捻じ曲げて外国人参政権を認めさせたいと考えている人たちなのでしょう。
日本国憲法第15条で保障されている「参政権」は「国民」に対して保障されているものなので、判例の「法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではない」という部分は違憲の疑いがあると言わざるを得ないと思います。
上の引用で述べた通り、「憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり」という部分を覚えておいてほしいなと思います。
ちなみに、この裁判では訴えた外国人は敗訴しています。
日本国憲法第94条 – 「条例の制定」について
地方公共団体における議会の議決に基づいて作られるルールのことを条例と言います。
条例は何の制限もなく作ってもよいのか?というと、実はそうではありません。条文にも規定がある通り、法律の範囲内で制定することができます。この点については、徳島市公安条例事件(最大判昭和50年9月10日民集第49巻2号639頁)という有名な判例があります。
参考までに条例の制定手続を見ていきましょう。
- 長(都道府県知事・市町村長)または議員が条例案を提出できる。また、住民による条例制定請求権もあります。
- 議会で審議をします。条例の制定・改廃の議決は、議会の出席議員の過半数で決定されます。
- 議長より条例の送付を受けた場合において、再議その他の措置を講ずる必要がないと認めるときは、その日から20日以内にこれを公布します。
- 条例に特別の定めがある場合以外は、公布の日から起算して10日を経過した日から施行されます。
日本国憲法第95条 – 地方自治特別法の住民投票について
ある法律が国会で制定されることによって、特定の地方公共団体に住む人たちの権利が侵害されたり国による不当な地方自治への干渉にあたる可能性がある場合などを想定したケースです。
こういった場合は、地方公共団体の住民投票においてその過半数の同意がなければ国会は制定できないという条文です。
事例としては、広島平和記念都市建設法などがあり、憲法が制定されてからこの条文を根拠に制定された法律はわずかに4件だけです。
また、他の条文との絡みで言えば、これは国会単独立法の原則の例外だということが思いつけばよいです。
中学生の皆さんには試験にはあまり出てこないので暗記は不要ですが、こんな条文もあるのだということですね。