コンビニでいつも買っているおにぎりが、気づけば10円高くなっていた。
ガソリンスタンドの価格表示が、昨日より3円上がっている。
そんな小さな変化に、「あれ、最近ちょっと高くなってない?」と感じたことはないでしょうか。
実はその「ちょっと高くなった気がする」という感覚こそ、経済の動きを映すサインです。
私たちの身の回りで買うすべてのモノやサービスには「価格」があります。その価格が社会全体でどんな傾向を見せているのか――つまり、上がっているのか、下がっているのか――を数字でまとめたもの、それが「物価」です。
物価とは?
「物価」とは、一定の範囲での多数の商品価格を、ある基準で総合的・平均的に表したものをいいます。たとえば、牛乳・パン・電気代・スマホ代など、暮らしに関係するさまざまなものの価格を集めて、「全体として上がったのか・下がったのか」を示すのです。
物価を調べることは、いわば「経済の温度」を測ること。
熱すぎれば(=物価が上がりすぎれば)生活が苦しくなり、冷えすぎれば(=物価が下がりすぎれば)経済の元気が失われる。
だからこそ、物価は一国の経済を知るうえで欠かせない“温度計”なのです。
消費者物価と企業物価――買う側と売る側、二つの視点
物価には、大きく分けて「消費者物価」と「企業物価」の二つがあります。
私たちが日常生活の中でよく耳にするのは「消費者物価」です。これは、私たちが実際にお店で買う商品の価格の平均を示したもの。食料品や衣類、家賃、光熱費、交通費など、生活に直接関わるものが中心です。ニュースで「物価が上昇した」と言うとき、多くの場合この消費者物価を指しています。
一方の「企業物価」は、企業同士が取引するときの価格をまとめたものです。たとえば、パン屋さんが小麦粉を仕入れるときの価格や、自動車メーカーが部品を買うときの価格などが含まれます。これらが上がれば、いずれ商品価格にも反映され、消費者物価の上昇につながることがあります。つまり、企業物価の動きは、未来の物価を予測する手がかりにもなるのです。
物価指数――数字で見る経済の変化
では、実際に「物価が上がった」「下がった」とは、どのように判断するのでしょうか。
そのために使われるのが「物価指数」です。これは、ある年を基準にして物価水準を100とし、他の年の物価がどれだけ変化したかを数字で表す方法です。
消費者物価指数とは?
物価指数にはいくつかの種類がありますが、最もよく使われるのが消費者物価指数(CPI:Consumer Price Index)。
これは、私たちが日常生活の中で購入するモノやサービス――食料品、衣料、家賃、電気代、スマホ料金など――の価格をもとに作られています。つまり、「私たちが体感する物価の動き」を示すものです。
たとえば、西暦2020年(令和2年)を基準年として100としたとき、西暦2025年(令和7年)8月の全国の消費者物価指数(西暦2020年=100基準)は112.1で、前年同月比では2.7%の上昇でした。この数字は、私たちの手に入るモノ・サービスの平均的な価格が、5年で約1割強上がったという目安になっています。
ただし、物価指数にはいくつかのバリエーションがあります。たとえば「生鮮食品を除く総合指数」「生鮮食品とエネルギーを除く指数(コア指数)」といったものです。これらは、価格が変動しやすい野菜やエネルギー(ガソリン・電気代など)を除くことで、基調をより見やすくする目的があります。西暦2025年8月の例では、生鮮食品を除く指数も111.6、前年同月比2.7%上昇、そして生鮮食品とエネルギーを除く指数は110.9で、前年比3.3%上昇となっています。
このように指数で表すことで、年ごとの比較が簡単になり、国の経済状態を客観的に把握できるようになります。ちなみに、このデータは総務省や日本銀行(日銀)が毎月発表しており、政策判断の重要な材料にもなっています。
企業物価指数とは?
消費者物価指数と並んで重要なのが企業物価指数(Producer Price Index, PPI 相当)です。こちらは、企業同士が取引するときの商品の価格変動を示すもので、消費者物価に先行して影響を与えることが多いです。
たとえば西暦2025年3月時点では、国内企業物価指数が前年比4.2%の上昇という報告がありました。 また、西暦2025年4月も同じく前年比4.0%上昇が続いており、企業間取引価格にも一定の上昇圧力がかかっている状況がわかります。
ただし、最近ではその上昇率がやや鈍化してきているという傾向も見えています。2025年6月には前年比2.9%と、10か月ぶりに2%台に戻ったとの報告があり、ガソリン価格の補助や電力・ガス価格の調整などが影響を与えているようです。 また、7月の統計でも前年比2.6%と4か月連続で上昇率の縮小が報じられました。 さらに、8月には前年比2.7%という数字も出ています。
こうした企業物価の上昇は、時間をおいて消費者物価に波及することが多く、企業物価指数は「物価の先行指標」としても注目されています。
小括「物価指数とは?」
このように、消費者物価指数と企業物価指数は、それぞれ「買う側」と「売る側」から経済の温度を測る指標といえます。
どちらか一方だけを見ても、経済全体の動きはつかめません。
たとえば企業物価が急に上がっても、企業が価格転嫁を我慢すれば、すぐには消費者物価に反映されません。
しかし、長く続けば、やがて店頭価格にも影響が出てくる。物価指数は、そうした「経済の波」を数字で読み取るための重要な手がかりなのです。
インフレーション[インフレ]とは何か?
「最近、物の値段が上がってる気がする」――。
そんなとき、ニュースではよく「インフレが進んでいる」と言います。
では、この“インフレ”とはいったい何なのでしょうか。
インフレーション(Inflation)とは、物価水準や賃金が持続的に上昇する現象のことを指します。
一時的な値上がりではなく、社会全体で「物の値段がじわじわ上がり続けていく」状態です。
インフレの正体――物の価値が上がり、お金の価値が下がる
インフレを理解するうえで最も大事なのは、「お金とモノの関係」です。
たとえば、世の中にボールペンが100本あり、全員のお金を合わせて1万円しかなかったとします。このとき、ボールペン1本の値段は100円です。
ところが、世の中に出回るお金が2万円に増えるとどうなるでしょう。
ボールペンの数は100本のままなのに、使えるお金が倍になったわけですから、1本あたりの値段は200円になります。
つまり、モノの値段(物価)が上がり、お金の価値が下がったということです。
以前は100円で1本買えたチョークが、今では200円出さないと買えない。
このように「同じお金で買える量が減る」現象こそ、インフレーションの本質なのです。
インフレで誰が得して、誰が損をするのか
インフレが進むと、モノを持っている人(たとえば土地や家を持つ人)は得をします。なぜなら、モノの価値が上がるからです。
一方で、預金や年金のように“お金”を持っている人は損をすることがあります。お金の価値が下がるため、同じ1万円でも買えるものが減ってしまうのです。
また、お金を借りている人は有利に、貸している人は不利になります。借金の「名目金額」は変わらないのに、お金の価値が下がるため、実質的に返す負担が軽くなるからです。
このように、インフレは社会全体に広く影響を及ぼします。
インフレの原因――需要と供給のバランスが崩れるとき
インフレが起こる理由はいくつかあります。
大きく分けると、「需要側に原因があるもの」と「供給側に原因があるもの」です。
需要インフレとは?
まず、需要インフレ(ディマンド・プル・インフレ)は、モノを買いたい人が増えすぎて、供給が追いつかなくなることで起こります。たとえば、景気が良くて人々の給料が上がり、みんなが一斉に買い物をするようになると、モノが足りなくなって値段が上がります。
これが典型的な需要インフレです。政府の財政支出が増えた場合(財政インフレ)や、銀行が積極的にお金を貸し出す場合(信用インフレ)、また外国からの需要が急増する場合(輸出インフレ)も、同じメカニズムで起こります。
費用インフレとは?
一方、費用インフレ(コスト・プッシュ・インフレ)は、生産する側のコストが増えることによって発生します。たとえば、原材料の輸入価格が上がったり(輸入インフレ)、働く人の賃金が上昇したり(賃金インフレ)すると、企業はその分を販売価格に上乗せします。
結果として、物価が全体的に上がってしまうのです。
構造的インフレとは?
さらに、現代経済ではもうひとつのタイプ――構造的インフレ――も見られます。
これは、経済の仕組みそのものに原因があるインフレです。たとえば、大企業と中小企業の間で生産性の差があるとき、大企業に引きずられる形で中小企業も無理に賃金を上げざるを得ない状況などが典型です。
このような構造的な歪みが、物価上昇を長引かせることがあります。
インフレのスピード――“じわじわ”か“駆け足”か“暴走”か
インフレはそのスピードによっても三つに分けられます。
まずはクリーピング・インフレ(忍び寄るインフレ)。年1〜2%程度の穏やかな物価上昇で、景気が安定しているときに起こります。このくらいのインフレは、経済が成長している証拠とも言われます。
次に、ギャロッピング・インフレ(駆け足インフレ)。10%を超えるような急激な物価上昇が起こる状態で、石油危機や大規模な自然災害のあとに見られることがあります。
そして最後がハイパー・インフレ。これは暴走するインフレとも呼ばれ、物価が一気に何倍にも跳ね上がる現象です。第一次世界大戦後のドイツでは、1個のパンを買うのに札束を抱えて行かなければならないほどでした。
発展途上国などでも、通貨価値の急落とともにこのような現象が見られることがあります。
小括:インフレは「悪」ではないが、放置すると危険
インフレと聞くと「物価が上がって大変」と思うかもしれません。
しかし、適度なインフレは経済の成長に必要です。企業の利益が増え、給料も上がり、経済に活気が生まれるからです。
問題は、それが行きすぎてしまったとき。通貨の信用が失われ、生活が不安定になると、社会全体が混乱します。つまり、インフレは「経済の血流」を測るサインのようなもの。そのスピードが速すぎても、遅すぎてもいけないのです。
デフレーション [デフレ]とは何か――「物の値段」が下がるとき、何が起こるのか
インフレーションが「物の値段が上がり続ける状態」なら、その反対がデフレーション [デフレ]です。
デフレーション [デフレ]とは、物価水準や賃金が持続的に下落する現象のこと。
つまり、モノの値段が下がり続ける一方で、お金の価値が上がっていく状態です。
一見、「モノが安くなるならいいことじゃない?」と思うかもしれません。
しかし、経済の世界ではそう単純ではありません。デフレが続くと、人々の心理や社会全体の動きに、深刻な影響を及ぼすことがあるのです。
デフレの正体――お金の価値が上がる世界
インフレのときは「お金の価値が下がる」と説明しましたが、デフレではその逆です。
お金の価値が上がるということは、同じ1万円で買えるものの量が増えるということです。
たとえば、去年は100円だったおにぎりが、今年は80円で買えるようになったとしましょう。
お金の価値が上がったから、少しの支出で同じモノが手に入るわけです。一見、うれしい現象に思えますが、社会全体でこの状態が長く続くと、別の問題が生まれます。
デフレスパイラル――下がる値段とともに下がる意欲
物価が下がると、人々は「もう少し待てば、もっと安くなるかもしれない」と考え、買い物を控えるようになります。するとお店の売上が減り、企業は利益を守るために給料を下げたり、人員整理を行ったりします。
賃金が下がると、人々の購買力が落ち、さらにモノが売れなくなり――。
この悪循環をデフレスパイラルといいます。
こうなると、景気の回復が難しくなり、社会全体が停滞してしまうのです。
日本でも、平成初期から長く続いた「失われた20年」と呼ばれる時期には、このデフレの影響が深く根を張っていました。
資産デフレ――「持っている人」も損をする世界
デフレが厄介なのは、モノの値段だけでなく、資産の価値まで下がることです。
たとえば、1億円で買ったマンションが、経済の停滞によって1,000万円にまで価値が落ちるような現象を「資産デフレ」といいます。
株価も同様で、企業の業績が悪化すれば株の価値が下がり、資産を持っている人も損をします。
人々の「将来はよくなるはず」という期待がしぼむと、消費も投資も冷え込み、社会全体が意気消沈してしまう。
これが、デフレが「不景気とセット」で語られる理由なのです。
結局、デフレでは誰が得して、誰が損をするのか
デフレのときは、お金の価値が上がるため、預金を持っている人には一見有利に見えます。
一方で、ローンなどでお金を借りている人は不利になります。
なぜなら、借りたときと同じ「1万円」を返しても、その1万円の価値が上がっているからです。
つまり、実質的には“重い借金”になってしまうということです。
たとえば、インフレの時代にはローンを組んで家を買っても、物価上昇とともに家の価値も上がるため、損をしにくい。しかし、デフレの時代に同じことをすると、家の価値が下がり、ローンだけが重く残ってしまうという事態に陥りかねません。
そのため、「デフレのときに借金をして家を買うのは危険」と言われるのです。
雇用と賃金――「下げにくい」ことが生む現実
デフレが続くと、企業はコスト削減を迫られます。
ただし、賃金には「下方硬直性」という性質があります。これは、給料を下げることが難しいという意味です。そのため、企業は給料を減らす代わりに人員整理(リストラ)を行いやすくなります。また、給料が下がると働く意欲(労働意欲)も下がり、経済全体の活力が失われていく。
こうして、デフレは「モノの値段」だけでなく「人の心」まで冷やしてしまうのです。
リフレーションという考え方――デフレから抜け出した
デフレから脱出したものの、まだインフレにはなっていない状態をリフレーション [リフレ]と呼びます。
「再びふくらむ」という意味で、経済が少しずつ回復していく段階を指します。
日本では、安倍政権下で行われた「アベノミクス」により、長いデフレから脱却したと言われましたが、完全なインフレではなく、このリフレ状態にあると見られています。
つまり、リフレとは、デフレから脱却した後に経済が緩やかなインフレへ向かいつつある状態を指します。政府や日本銀行が目指しているのは、急激ではなく安定した物価上昇(約2%程度のインフレ目標)を続けることなのです。
小括: デフレは静かな「経済の冷え」
デフレは、見た目には穏やかです。
値段が下がる、給料が大きく減らない――。
けれども、その裏では、企業の活気が失われ、人々の挑戦する意欲も冷めていきます。まるで、ゆっくりと温度が下がる部屋のように、気づかないうちに社会全体を冷え込ませてしまうのです。
スタグフレーション――景気が悪いのに物価が上がる現象
ふつう、景気がよくなるとモノがよく売れるため、企業は値段を上げても買ってもらえるようになり、物価が上がります。反対に、景気が悪くなるとモノが売れなくなるため、値下げが行われ、物価は下がるのが一般的です。
しかし、こうした常識とは逆に、景気が悪化しているのに物価だけが上昇する現象があります。それがスタグフレーション(stagflation)です。
スタグフレーションとは、「景気停滞(スタグネーション stagnation)」と「物価上昇(インフレーション inflation)」を組み合わせた言葉です。つまり、景気の停滞と物価上昇が同時に進む状態を指します。
ふつうなら、景気が悪いときには値段を下げなければ商品は売れません。しかし、スタグフレーションのときは、物の供給が減ったり、生産コストが上がったりするため、企業が値段を上げざるを得ないのです。
なぜスタグフレーションが発生するのか?
スタグフレーションの原因は、モノを買う人(需要)ではなく、モノを作る側(供給)にあります。
まず、そもそもなぜ物の値段が上がるのかを考えてみましょう。
私たちが買う商品――おにぎりや洋服、スマートフォンなど――は、作られるまでに多くのコスト(費用)がかかっています。材料を仕入れ、工場で加工し、電気を使い、トラックで運ぶ。どの工程にもお金が必要です。
ところが、原油や小麦、電気代といった原材料やエネルギーの価格が急に上がると、企業は以前と同じ値段で商品を売ることができなくなります。利益を守るためには、どうしても販売価格にその分を上乗せせざるを得ません。
これが、物価が上がる基本的な仕組みです。
しかし、スタグフレーションのときは、ここに大きな問題が生じます。
景気が悪く、企業の売り上げも伸びないのに、原材料の値段だけが上がってしまうのです。
企業はコストが増えた分だけ値段を上げざるを得ませんが、人々の給料(所得)はすぐには上がりません。なぜなら、企業が給料を決めるときには、過去の業績や今後の見通しを見て慎重に判断するからです。コストが増えている時期には、新しいお金を使う余裕がなく、賃上げを後回しにしてしまうことが多いのです。
その結果、モノの値段だけが上がり、給料は追いつかないという状態が生まれます。
スーパーに行けば、食料品や日用品の値段は上がっているのに、自分や家族の収入は変わらない。
同じ金額を払っても買える量が減ってしまう――そんな状況が続くわけです。
これがスタグフレーションの怖さであり、家計を直撃する要因なのです。
歴史的な例――1970年代の石油危機
スタグフレーションが世界中で注目されるきっかけになったのは、1970年代(昭和40年代後半)の石油危機(オイルショック)でした。
当時、中東の産油国が原油の輸出を制限したことで、原油の価格が急激に上昇しました。
その結果、ガソリンや電気代はもちろん、原油を使って作られるプラスチック製品や化学肥料の価格までが次々に上がっていったのです。
石油は現代産業の「血液」とも呼ばれるほど、あらゆる生産活動に欠かせないエネルギー源です。
その値段が上がるということは、商品の生産にかかる費用(コスト)が一斉に上がるということを意味します。
つまり、企業は商品を作るたびに以前より多くの支出をしなければならず、利益を守るために販売価格を上げざるを得ませんでした。
ところが、同じ時期に景気は悪化していきました。
原油価格の高騰によって企業の生産コストが急激に上がり、利益が出にくくなったためです。
新しい設備投資を控えたり、雇用を減らしたりする企業が増え、経済全体の動きが鈍くなっていきました。
つまり、モノの値段は上がっているのに、企業のもうけも家計の収入も増えない。
物価上昇と景気後退が同時に進む――これこそが、スタグフレーションの最も深刻な特徴なのです。
当時の日本でも、トイレットペーパーや洗剤などが店頭から消える「買い占め騒動」が起こりました。
人々は「これからさらに値上がりするのでは」と不安になり、必要以上に買い込もうとしたのです。
こうした心理的な動きも、物価上昇をさらに加速させる要因となりました。
この石油危機は、各国の経済政策にも大きな影響を与えました。
それまでのように政府が積極的にお金を使って景気を支える「大きな政府」では、もはや対応しきれない――そう考えられるようになったのです。
その反省から、政府の介入を減らし、市場の力を重視する「小さな政府」への転換が進みました。
スタグフレーションは、単なる経済現象にとどまらず、時代の価値観を変えた出来事でもあったのです。
現代日本との関わり――私たちの暮らしの中のスタグフレーション
1970年代の石油危機ほど大きな衝撃ではないものの、現代の日本でも、スタグフレーションに似た状況が話題になることがあります。
たとえば、西暦2022年(令和4年)以降、原材料やエネルギーの価格が世界的に上昇しました。その背景には、資源の供給が不安定になったことや、国際的な紛争による物流の混乱などがあります。この影響で、ガソリン代や電気料金、食料品の価格が次々と上がり、多くの人が「生活が苦しくなった」と感じるようになりました。
一方で、日本の企業では長年、賃金の上昇が抑えられてきました。
そのため、物価が上がっても給料がすぐには追いつかず、家計の負担が増えてしまうという構図が続いています。このような状況は、まさにスタグフレーションの特徴である「物の値段だけが上がるのに、景気が良くならない」状態に近いといえます。
もっとも、日本銀行(日銀)や政府はこうした状況を放置しているわけではありません。
賃上げを促す政策や、エネルギー価格の安定化を目指す取り組みが行われています。ただし、経済の仕組みは複雑で、政策の効果が現れるまでには時間がかかります。
だからこそ、ニュースで「物価」「インフレ」「景気」といった言葉を耳にしたとき、その背景にある“原因のつながり”を考えることが大切なのです。
スタグフレーションは、単なる過去の出来事ではなく、現代社会が抱える構造的な課題を映す鏡でもあります。
物価と景気、そして人々の生活の関係を理解することは、自分の将来や社会のあり方を考えるうえでも欠かせない視点です。
「なぜ物価が上がるのか」「なぜ景気が良くならないのか」――そうした問いを持ち続けることこそ、
これから経済を学ぶ第一歩なのです。
まとめ――「経済を見る目」を育てる
私たちの暮らしの中で、物価はいつも静かに動いています。
コンビニでの値札の変化も、ニュースで聞く金利の話も、どれも経済という大きな流れの一部です。
インフレのときは社会が熱を帯び、デフレのときは冷え込み、そしてスタグフレーションのときはそのバランスが崩れます。
けれども、こうした変化は決して遠い世界の話ではありません。
私たち一人ひとりの消費行動、働き方、そして生き方の選択が、経済という川の流れを形づくっているのです。だからこそ大切なのは、「経済を感じ取る感性」と「数字の奥にある意味を読み取る力」です。
物価指数の数字をただ見るのではなく、「なぜ上がったのか」「その裏で誰が影響を受けているのか」を考えてみる。
その習慣こそが、ニュースの向こう側にある「時事の流れ」を感じ取る力につながります。
そして、経済の学びとは決して暗記科目ではありません。それは、社会を読み解くための言語であり、未来を設計するための道具なのです。
おにぎりの10円、ガソリンの3円――。
その小さな変化の中に、世界の動きが隠れています。
今日の物価を通して、あなた自身の明日を考えてみてください。

