私たちの暮らしは、さまざまな企業の活動に支えられています。
コンビニで食べ物を買うのも、バスや電車で学校へ行くのも、病院で診察を受けるのも──その裏側には必ず「企業」の存在があります。
では、すべての企業が同じ目的で動いているのでしょうか?
実はそうではありません。利益を追求する企業もあれば、地域や社会のために公共サービスを担う企業もあります。こうした違いを理解することは、単なる知識の暗記ではなく、「社会の仕組みをどう見るか」を考える第一歩なのです。
高校の政治経済では、経済の担い手を「家計」「政府」「企業」の三つに分けます。
今回はその中から「企業」に焦点を当て、種類ごとの特徴や役割を見ていきましょう。分類の背後にある意義を考えることで、経済の流れがもっとリアルに見えてくるはずです。
私企業
私企業は個人企業と共同企業に大別することができます。
個人企業とは?
私企業の一つに「個人企業」があります。
農家や個人商店、町のお豆腐屋さんやお魚屋さんなど、日常生活で目にする小規模な事業がその代表例です。多くは家族経営の形をとり、地域に密着した役割を果たしています。
個人企業の大きな特徴は、経営と所有が一体であることです。お店や農場の「持ち主」と「経営する人」が同じであり、その人が責任もすべて負うということです。経営者自身が資金を出して事業を運営し、利益はすべて自分のものになる一方で、損失もすべて自分で負わなければなりません。このように「リスクも利益も一身に背負う」仕組みであるため、経営責任が非常に重い形態だといえます。さらに、会社のような複雑な設立手続きを経る必要はなく、基本的には税務署に開業届を提出するだけで事業を始められる点も特徴です。この手軽さが、個人企業を身近な起業の入り口にしています。
もっとも、個人企業は規模が小さいために資金を集めにくく、事業が拡大すると経営者一人の力では対応しきれない場合も出てきます。大企業やチェーン店との競争に直面すると、存続が難しくなることもあります。それでも、経営者の判断で素早く動ける柔軟さや、地域に根差したサービスを提供できる点は強みです。つまり、個人企業は強みと弱みの両方をあわせ持つ存在なのです。
共同企業とは?
もう一つが「共同企業」で、こちらは複数の人々が力を合わせて設立・運営する形態です。
会社企業とは?
この中でも最も身近なのが「会社企業」です。株式会社など、いわゆる「会社」と呼ばれるものがこれにあたり、現代社会で「企業」と聞いて多くの人がまず思い浮かべる典型的な姿でしょう。会社企業の基本は、出資した人(株主)が経営者を選び、会社が利益を上げれば株主に配当という形で還元する仕組みにあります。つまり、資本を提供した株主が利益を受け取ることが最大の特徴です。会社企業については、株式会社の仕組みや経営のしくみなど内容が多いため、別稿で詳しく取り上げたいと思います。
組合企業とは?
一方で「組合企業」は、少しイメージがわきにくいかもしれません。代表的なのが農業協同組合、通称「JA」です。農家は個人の力だけで農産物を売ったり、資材を仕入れたりすると、どうしても大規模な企業に比べて不利になってしまいます。たとえば肥料や農機具を一軒一軒がバラバラに買えば高くつきますが、農家全体で共同購入すれば安く仕入れることができますし、販売でも一人で市場に出すより、組合を通してまとめて出荷したほうが有利な価格で売ることができます。あとは、生活協同組合(コープ)を挙げることができます。こちらも農業協同組合と同じ発想で、消費者が共同で出資し、安全で安価な食品や生活必需品を仕入れて利用しています。組合企業は、株式会社のように利潤を株主に分配するのではなく、組合員自身の生活や経営を豊かにすることを目的としている点に特徴があります。このように「みんなで力を合わせることで個人では得られない経済的なメリットをつくり出す」という仕組みが協同組合の本質です。
公企業
次に紹介するのは「公企業」です。これは国や地方公共団体が出資し、経営する企業を指します。近年は民営化の流れが進んでいますが、それでも私たちの生活に欠かせない分野を担っています。
国営企業
かつては国営企業が存在しました。
まず「日本専売公社」は、たばこと塩を国家が独占して販売していた機関です。しかし独占の必要性が薄れたことから西暦1985年(昭和60年)に民営化され、現在のJT(日本たばこ産業株式会社)となりました。次に「日本国有鉄道(国鉄)」です。全国の鉄道網を一括して運営していましたが、巨額の累積赤字を抱え経営が破綻寸前となったため、西暦1987年(昭和62年)に分割・民営化され、現在のJR各社(東日本・東海・西日本・北海道・四国・九州)へと移行しました。また、「日本電信電話公社(電電公社)」は、電話事業を国が独占的に運営していた機関です。しかし通信需要の拡大や国際競争の必要性から西暦1985年(昭和60年)に株式会社化され、現在のNTT(日本電信電話株式会社)として再出発しました。
このように、かつての国営企業は国民生活に直結する重要事業を担っていましたが、時代の変化に対応するために民営化され、現在は株式会社として活動しています。
地方公営企業とは?
一方で「地方公営企業」は現在も広く存在しています。
これは都道府県や市町村といった地方公共団体が出資・経営する企業形態で、上下水道やガスの供給、市営バス、地下鉄などが代表例です。
こうした事業は利益を出すこと自体が目的ではなく、地域住民の生活を維持するために不可欠なサービスを提供することが目的です。そのため、民間企業では採算が取れず参入しにくい分野を地方自治体が担い、独占が認められているのも特徴です。ここで働く職員は「現業公務員」と呼ばれ、役所で勤務する一般職公務員とは立場が異なります。
では、なぜ地方公共団体そのものが直接経営するのではなく、「地方公営企業」という仕組みをとっているのでしょうか。理由の一つは、自治体の通常の行政サービス(教育や福祉など)と、企業的に運営すべき事業(交通や上下水道など)を区別するためです。水道や交通といった分野は、大きな設備投資や継続的な収支管理が不可欠で、一般会計と切り離して「企業会計」を導入した方が効率的に運営できます。また、事業としての独立性をある程度持たせることで、経営状況を住民に分かりやすく公開し、行政の透明性を高める狙いもあります。
このように地方公営企業は、「行政サービス」と「企業経営」の中間的な存在として設けられているのです。
独立行政法人とは?
公企業には「独立行政法人」もあります。これらは、もともと国の行政機関が直接行っていた仕事を、より効率的に、かつ専門的に運営するために切り離して設けられた組織です。
独立行政法人は、国から一定の独立性を持ちながら、公共性の高い事業を担う法人です。西暦2001年(平成13年)の中央省庁再編とその後の行政改革の中で整備され、役所の中に抱え込んでいた事務を外部に切り出す形で数多く設立されました。
たとえば、国立印刷局や造幣局はかつて「特殊法人」に分類されていましたが、西暦2003年(平成15年)に独立行政法人へ移行しました。紙幣や硬貨の製造といった専門的な業務を、国の直営よりも柔軟で効率的に運営するためです。また、国立病院機構、国立美術館、国民生活センターなどもこれに当てはまり、いずれも国民生活に密接に関わる分野を専門的に運営しています。
高校生の皆さんがお世話になる人が多い独立行政法人を紹介しましょう。1つ目は大学入試センターです。大学入試センターは大学入試センター法に基づいて西暦1977年(昭和52年)に設立され、西暦2001年(平成13年)の行政改革によって独立行政法人となりました。長らく大学入試センター試験を実施してきましたが、西暦2020年度(令和2年度)からは大学入学共通テストへ移行し、現在も同じ独立行政法人としてその運営を担っています。
このように、制度は変化しても教育や医療、文化など幅広い分野で独立行政法人は重要な役割を果たしているのです。
特殊法人とは?
特殊法人は、個別の法律(特別法)に基づいて設立され、特定の公共的役割を担う法人です。
たとえば、日本中央競馬会(JRA)は「日本中央競馬会法」に基づいて設立され、公営競技を通じて得られた収益を国庫に納め、公益事業の財源を支えています。また、日本放送協会(NHK)は「放送法」に基づく特殊法人で、政治や企業から独立した立場で公共放送を提供しています。
このように、特殊法人は国からの支援や監督を受けつつ、通常の行政機関ではなく、かといって完全な民間企業でもない独自の位置づけを持ちます。つまり、法律上は特殊法人に分類されながら、その運営形態は「政府でも民間でもない中間的な存在」として、公企業と私企業の両方の性格をあわせ持っているのです。
公庫
さらに「公庫」と呼ばれる組織も公企業に含まれます。代表的なのが日本政策金融公庫です。これは国が全額出資して設立された金融機関で、民間の銀行では融資が難しい分野を重点的に支えています。
たとえば、中小企業が新しい設備を導入したいときや、創業したばかりの人が資金を必要とするとき、民間の銀行では「リスクが高い」と判断されて融資を受けにくいことがあります。そんなときに日本政策金融公庫は、低金利で長期の融資を行い、事業の立ち上げや継続を支援します。
また、農業や漁業といった自然条件に大きく左右される産業への融資も重要です。収益が不安定であるため、民間金融機関は慎重になりがちですが、日本政策金融公庫は農業者や漁業者に資金を提供し、地域の食料供給や産業の維持を支えています。さらに、教育費や子育て費用を対象にした国民向けの教育ローン事業も展開しており、生活面でも重要な役割を果たしています。
この日本政策金融公庫は、西暦2008年(平成20年)に、それまで存在していた国民生活金融公庫・農林漁業金融公庫・中小企業金融公庫などを統合して誕生しました。複数の公庫を一つにまとめることで、資金の供給を一元化し、より効率的な政策金融を行うことが狙いとされています。
このように、公庫は「民間銀行だけでは手が届かない分野」を補い、国民生活や産業を下支えするセーフティネットとして機能しているのです。
公私合同企業
これまで見てきたように、企業は大きく「私企業」と「公企業」に分けられます。
しかし現実には、そのどちらか一方にすっきり分類できない企業も存在します。それが公私合同企業(公私混合企業)です。国や地方公共団体と民間が共同で出資・経営する企業であり、両者の中間に位置づけられます。
第三セクター
代表的なものが「第三セクター」と呼ばれる形態です。
ここでいう「セクター」とは「部門」の意味で、第一セクターは政府、第二セクターは民間企業を指します。両者が共同で設立するため「第三セクター」と呼ばれます。
具体例としては、国鉄の分割民営化の際に誕生した三陸鉄道(岩手県)や、北陸新幹線の開業に伴って並行在来線を引き継いだしなの鉄道(長野県)、えちごトキめき鉄道(新潟県)などが有名です。
こうした鉄道は、利用者が少なく採算を取るのが難しいため、国鉄やJRのままでは「赤字路線」として廃止される危険がありました。しかし、地域住民にとっては通勤・通学や生活に欠かせない交通手段です。そこで、自治体が出資し、民間の運営手法を取り入れて新しい会社をつくり、路線を引き継いだのです。こうすることで、完全に廃線にしてしまうのではなく、地域の公共交通を維持することができました。
第三セクターには成功例と失敗例の両面があります。三陸鉄道はその好例で、東日本大震災後には被災地の復興の象徴として注目され、地域の誇りにもなりました。一方で、観光開発やリゾート施設を第三セクター方式で進めたケースの中には、利用者が想定より伸びずに赤字が膨らみ、自治体の財政を圧迫する「失敗例」も少なくありません。
このように第三セクターは、民間では採算が合わないが、地域にとって不可欠な事業を守る仕組みとして生まれたものですが、成功と失敗の両方をはらむ存在でもあるのです。
特殊会社
また、株式会社の形をとりながらも、国が一定の株式を保有して公共性を担保している企業もあります。これを特殊会社と呼びます。
代表例はNTT(日本電信電話株式会社)、JT(日本たばこ産業株式会社)、そして日本郵政株式会社です。これらはいずれも、もともと国営企業から民営化された経緯を持っています。民営化によって経営の効率化や競争の促進を狙いつつも、通信・郵便・金融・たばこなど、国民生活に直結する分野を完全に市場原理だけに任せてしまうのは危険です。そこで国が一定割合の株式を持ち続け、公共性を確保しているのです。
たとえば日本郵政は、郵便・貯金・簡易保険という「郵政三事業」を担ってきました。郵便は地方の過疎地まで含めて全国一律でサービスを提供する必要がありますし、ゆうちょ銀行やかんぽ生命も、民間の金融機関が手を伸ばしにくい地域や層をカバーする役割を持っています。完全民営化してしまうと、採算が取れない地方サービスが切り捨てられる恐れがあります。そこで特殊会社という形態をとり、国が一定の影響力を残すことで、公共性と効率性の両立を目指しているのです。
NTTやJTも同様です。NTTは通信網の維持という社会基盤の役割を、JTは健康や税収に深く関わる商品を扱っており、いずれも単なる「一民間企業」には任せにくい性質を持っています。特殊会社という形態は、このような分野において「民間の活力を取り入れつつ、国が一定のコントロールを残す」ための仕組みなのです。
日本銀行
さらに、日本の中央銀行である日本銀行(日銀)も独特の位置づけを持っています。
日本銀行は株式会社の形をとり、資本金のうち55%を国(正確には財務省)が出資しています。残りは民間が保有していますが、日銀総裁や政策決定には政府の強い関与があるため、実質的には公私合同企業として機能しています。日銀は通貨の発行や金融政策の実施など、日本経済の根幹を担う極めて重要な役割を果たしています。
では、なぜ日銀は財務省の一部として運営されていないのでしょうか。理由は大きく二つあります。
1つは政治からの独立性を確保するためです。もし財務省が直接お金を発行できる立場にあったら、政府は赤字財政を補うためにどんどん通貨を刷ってしまう危険があります。そうなればインフレーションが起き、物価が急上昇して国民生活が大きな打撃を受けます。そこで、財政を担当する財務省から切り離し、「中央銀行」という独立機関に通貨の管理を任せることで、政治に左右されない安定した金融政策を行えるようにしているのです。
もう1つは民間との信頼関係を維持するためです。日本銀行は政府の機関であると同時に、民間銀行の「銀行」でもあります。民間銀行は日銀に口座を持ち、資金決済を行うことで経済全体の血流が流れています。そのため日銀には、政府だけでなく民間銀行や市場からも信頼を得る必要があります。株式会社の形をとって一部を民間に出資させているのは、民間経済とのつながりを制度的に保証するためでもあります。
このように日本銀行は、政府からの独立性と民間との連携という両方の役割を果たすために、公私合同企業という特殊な形をとっているのです。まさに「政治と経済の橋渡し役」として、日本経済の安定を支える存在だといえるでしょう。
日本銀行については別稿についてくわしく取り上げます。
その他の公私合同企業
このほかにも、日本放送協会(NHK)、日本赤十字社、さらには日本中央競馬会(JRA)など、法律に基づいて設立され、公共性を帯びつつ独自の事業を行う法人も存在します。
日本放送協会(NHK)は、国営にすると政府寄り、民営にするとスポンサー寄りになってしまうため、受信料を財源とする独立法人として設立されています。これによって、政治や企業に左右されない公共放送を実現しているのです。
日本赤十字社(日赤)は、災害救援や血液事業などを担う団体です。もし国の一部に組み込まれてしまうと国際的な中立性が失われるおそれがあります。そのため、独立した立場で人道支援を行える法人として存在しているのです。
日本中央競馬会(JRA)は、競馬を運営する組織で、その収益は単なる利益として蓄えられるのではなく、国庫に納められて公共事業や社会還元に活用されています。もし完全に民間企業に任せてしまえば、利益が一部の経営者や株主に集中してしまい、公益性が確保できません。そこで国の監督下に置かれる法人として運営されており、娯楽で得られた収益を社会全体に還元する仕組みを持っているのです。
これらも「完全な公企業」とは言えず、民間的な要素を取り込んだ独特の形態をとっています。


