朝、コンビニでパンを買い、スマホのサブスクで音楽を流し、舗装された道路を通って学校へ向かう。どれも当たり前の光景ですが、少し視点を変えるとそこには必ず三つの登場人物がいます。
商品やサービスをつくって売るのが企業、それを選んで買い、働いて収入を得るのが家計、そして道路や学校、警察や消防といった社会の土台を整えるのが政府。この三者が、お金という共通言語を介してつながり合うことで、私たちの暮らしは回っています。
言い換えれば、あなたがレジで「ピッ」と支払った瞬間から、企業の売上、従業員の賃金、税金の財源、そして次の公共サービスへと、お金とモノ・サービスの流れが動き出します。これが経済循環です。
本稿では、この循環の担い手である家計・企業・政府を順にたどり、三者の役割と関係を“生活の実感”に重ねながら見ていきます。読み終える頃には、いつもの日常が、三人の主役が共演するダイナミックな舞台に見えてくるはずです。
経済主体の基本
経済の仕組みを理解するうえで欠かせないのが経済主体という考え方です。これは収入と支出を通じて経済活動を行う担い手のことで、大きく分けると家計・企業・政府の3つがあります。この3つについてはきちんと記憶をしておく必要があります。
関係図を示すと以下のようになります。

上の図をご覧になってくださっても分かるように、3つの経済主体はそれぞれが密接に関係しているようです。この三者の間でお金や財・サービスがやり取りされることで、国民経済全体が循環していることが分かります。
ここから、それぞれの経済主体の特徴を1つずつ見ていきます。それぞれの主体の立場に立ちながら読んでいただけると、理解も深まると思います。
経済主体1つ目: 家計
まずは、最も身近で、そして経済活動全体の六割を担うといわれる家計に注目してみましょう。
家計とは?
家計とは、同一の生計を立てている世帯を指し、一人暮らしの個人も含まれます。家計は企業に労働力・資本・土地を提供する代わりに、賃金・利子・配当・地代といった形で所得を得ます。
所得にはいくつかの種類があり、大きく分けると二つに整理することができます。
1つは、働いた対価として得られる勤労所得です。会社員が受け取る賃金やボーナス、パートやアルバイトの給料などがこれにあたります。もう1つは、働かなくても資産から得られる財産所得です。銀行預金の利子、株式の配当、不動産を貸したときの家賃収入などがその代表例です。多くの家庭では勤労所得が中心ですが、財産所得の有無によって生活のゆとりが変わることもあります。
この所得から税金や社会保険料を差し引いた残りを可処分所得と呼び、これをもとに消費を行います。
例えば、社会に出たばかりの若者がお給料として22万円を受け取ったとしましょう。しかし給与明細を見ると、所得税や住民税、さらに厚生年金や健康保険といった社会保険料が差し引かれ、実際に手元に残るのはおよそ18万円ぐらいだったりします。この「自由に使える部分」こそが可処分所得であり、家賃や食費、スマホ代、あるいは趣味や旅行といった出費に回されていきます。
家計の経済活動の目的とは?
家計の経済活動の目的は、効用の最大化です。効用とは少し難しい言葉ですが、要するに「満足度」のことを意味します。たとえば、良い物を安く手に入れて得した気分になったり、推しのライブに行って心が満たされたり、コンビニの新商品を買って小さな幸せを感じたりすることは、すべて効用です。人によって満足の形はさまざまですが、どの場合も効用を高めたいという点で共通しています。
所得のうち消費に使わなかった残りは貯蓄と呼ばれます。「貯金」という言葉を使うことも多いですが、厳密には郵便局や銀行にお金を預けることを指し、家計全体の蓄えを示す場合は「貯蓄」と表現するのが正確です。初任給の例でいえば、18万円の手取りから12万円を生活費に使い、残りの6万円を貯蓄に回すといった形です。日本はかつて「貯蓄好き」といわれ、国際的に見ても貯蓄性向が高い国でした。しかし近年は家計の貯蓄率が低下し、2010年代半ばにはゼロ近くまで落ち込んだ年もあります。物価上昇の影響もあり、十分に貯蓄できない家庭が増えている点も現代の特徴です。それでも「将来のために少しでも残しておこう」という意識自体は根強く残っています。
さらに、家計の消費は資産効果の影響も受けます。家庭で保有している株式や不動産の価格が上がると、「少し余裕ができたから外食を増やそう」といった気持ちになり、消費が増えることがあります。ただしこれは資産を持つ世帯に限られる特徴です。
家計の状況を表す指標
家計の姿を理解するためには、いくつかの指標が用いられます。もっとも有名なのがエンゲル係数で、これは消費支出に占める飲食費の割合を示します。もし一人暮らしの初任給のうち、手取り18万円の半分近くが食費に消えているなら、エンゲル係数は50%前後ということになります。かつてはエンゲル係数が高ければ生活が苦しいとされましたが、現代ではグルメ志向や食べ歩きの趣味によって高くなる人もおり、一概に貧富と結びつけることはできません。加えて、近年の上昇傾向は食品価格の値上げといった物価高騰の影響が大きく、数値そのものを単純に生活水準の低下とみなすことはできない点に注意が必要です。
また、住居費の割合を示すシュワーベ係数や、子どもの教育費にかかる割合を示すエンジェル係数も重要な指標です。
シュワーベ係数は、家計の消費支出のうち住居費がどのくらいを占めているかを示すもので、かつてはこの数値が高ければ「家計が苦しい」と判断されてきました。例えば手取り18万円のうち、8万円を家賃に支払っているとすれば、シュワーベ係数はおよそ44%になります。特に都市部では家賃相場が高く、若い世代や一人暮らしの学生にとっては大きな負担となりやすいのです。一方で、持ち家を購入した場合でも住宅ローンの返済が家計を圧迫することは多く、シュワーベ係数の高さは現代でも家計の実感に直結しています。
エンジェル係数は、子育てや教育にかかる費用の割合を示すもので、西暦1989年(平成元年)に野村證券が提唱した造語です。公的な統計指標ではありませんが、家庭の教育費負担をイメージする際にしばしば使われています。特に先進国では子どもの数が少ない一方で、一人あたりにかける教育費が大きくなるため、この数値が上がりやすいといわれています。高校や大学まで私立に通えば、学費や塾代、教材費などで年間数十万円から数百万円が必要となり、家庭の可処分所得に大きな影響を与えます。特に日本では少子化が進む中、一人の子どもにかける教育費が年々増加しており、「教育費が家計を圧迫する」という声は社会問題としても取り上げられています。例えば、習い事や受験準備にかかる費用が家計を圧迫し、親世代が「教育費貧乏」と呼ばれる状態に陥るケースも少なくありません。
経済主体2つ目: 企業
次に「企業」について見ていきましょう。

企業とは?
家計と並んで経済活動を担うもう一つの大きな主体が企業です。
企業とは、家計から提供された労働力や資本(事業のための資金や設備)、土地を用いて、財やサービスを生産・供給する組織を指します。その見返りとして得るのが利潤(利益)です。スーパーで食品を売ったり、スマホ会社が通信サービスを提供したりするのは、すべて企業の経済活動の一部なのです。
利潤の最大化という目的
企業の基本的な目的は利潤の最大化です。もちろん「お客様の笑顔のために」などと企業理念を掲げる会社は多いですが、それを実現するためには利益が欠かせません。利益があるからこそ、従業員に給料を払えたり、新しい機械を導入してより良い製品をつくれたりするのです。もし赤字が続けば、いくら立派な理念を掲げていても会社は存続できません。
例えば街のたこ焼き屋さんを想像してください。売上が順調に伸びれば、新しい鉄板を導入したり、二号店を出したりすることができます。逆に利益が出なければ、材料を仕入れることすら難しくなります。このように企業にとって利潤の確保は、生きていくための「酸素」のように不可欠なものだと言えるでしょう。
利潤の行方
企業が得た利潤は、いくつかの形で分配されます。一部は働いた人への賃金として支払われ、出資者である株主には配当(利益の一部を還元する仕組み)として分配されます。また、残りは内部留保として会社に蓄えられ、将来の投資や設備の更新、研究開発に使われます。
例えば、自動車メーカーが新型EV(電気自動車)の研究に巨額の資金を投じられるのは、この内部留保があるからこそです。実際、日本企業の内部留保(利益剰余金)は増え続けており、2023年(令和5年)度末には約600兆円と過去最高を更新しました。これは「企業が稼いだ利益を蓄える傾向が強い」とも言えますし、「投資や賃上げに慎重すぎる」という批判につながることもあります。
市場競争とシェア拡大
企業にとってもう一つ重要な目的が市場占有率 [マーケットシェア]の拡大です。市場占有率とは、「市場全体の中で自社の商品やサービスがどれだけの割合を占めているか」を示す指標です。
ライバル会社との競争に勝ち、自社の商品やサービスをより多くの人に使ってもらうことで、長期的に安定した利益を得ようとします。たとえば、飲料メーカーがコンビニやスーパーで自社のペットボトル飲料を多く並べてもらうよう営業するのは、まさにシェアを広げるための努力です。
この競争は日本国内だけでなく世界市場でも繰り広げられています。例えば、2024年の世界スマホ市場ではAppleが18.7%、Samsungが18.0%のシェアを占め、激しく競り合っています。またトヨタ自動車は2023年度にグループ全体で約1,109万台を世界で販売し、過去最高記録を更新しました。こうした数字を見ると、企業にとってシェア拡大がいかに重要かがわかるでしょう。
企業の社会的役割
近年は「利潤最大化」だけでなく、社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)や持続可能性(SDGs: Sustainable Development Goals)を意識した経営も重視されています。たとえば環境に配慮した生産、働きやすい職場づくり、地域社会への貢献などがその具体例です。これは、高校生の皆さんがこれから社会に出て働くときにも大切な視点であり、「儲けさえすればいい」という従来の発想からの変化だと言えます。
企業のまとめ
このように企業は、財やサービスを生産・供給することで社会に必要なものを提供し、その対価として利潤を得る経済主体です。利潤の一部は家計に分配され、残りは将来の投資に回されます。また、競争を通じて市場を拡大しつつ、現代では社会的責任も果たすことが求められています。家計が「効用の最大化」を目指す存在だとすれば、企業は「利潤の最大化」を基本原理とする存在なのです。
なお、「企業」にはさまざまな種類があります。もちろん種類の応じて特徴もあります。それについては、以下のコンテンツにくわしく解説しました。
そして、「企業」で最も有名な組織形態といえば株式会社。株式会社とはどのような特徴を持っているのかなどを解説したコンテンツがこちらです。
経済主体3つ目: 政府
最後に政府について見ていきます。

政府とは?
経済活動を担う三つ目の主体が政府です。
ここでいう政府とは、内閣や国の機関などの中央政府に加え、都道府県や市区町村といった地方公共団体を含みます。つまり「国と地方を合わせた公的機関」を指すと考えてください。
政府は家計や企業から租税(税金)や社会保険料を集め、その財源を使って公共財や公共サービスを提供します。公共財とは、道路・橋・公園など誰もが利用できる施設や、警察・消防・防衛など社会全体に必要なサービスを指します。私たちが毎日安心して生活できるのは、こうした政府の活動があるからです。
政府の役割
政府の役割は本来、外交や安全保障、法律制度の整備など多岐にわたります。
しかし経済の観点に絞ると、大きく三つに整理することができます。
第一に、市場に任せておくだけでは十分に供給されないものを整える「資源の配分」の役割です。ここでいう資源とは、道路・鉄道・上下水道・電力網・港湾・空港といった社会資本(インフラ[インフラストラクチャー])を指します。社会資本は、私たちの生活や企業活動を支える基盤となるもので、学校や病院、公園や図書館などの公共施設も含まれます。これらは社会全体には欠かせないものですが、利益をすぐに生み出さないため、民間企業が単独で整備するのは難しいのです。例えば高速道路を全国に整備したり、上下水道を地方の小さな町まで行き渡らせたりする事業は、採算性だけでは判断できないため政府が担うことになります。
第二に、税や社会保障を通じて富の偏りを緩和し、医療や年金といった形で支援を行う「所得の再分配」の役割があります。高所得者から多く税を集め、それを医療・年金・生活保護などに充てることで、生活に困っている人を支えます。例えば、現役世代が納める年金保険料や税金を財源にして、高齢者に年金が支給されているのはこの仕組みです。
そして第三に、景気の波をならす経済の安定化の役割があります。景気が悪いときには政府が公共事業を増やしたり減税を行ったりする財政政策をとります。例えば、コロナ禍で景気が落ち込んだときに、一律10万円の特別定額給付金が支給されたのはその一例です。このように政府は、財政を通じて景気の落ち込みを和らげたり、過熱を抑えたりしながら、経済全体のバランスを保とうとします。(※なお、景気や物価を調整するもう一つの手段として金融政策がありますが、これは日本銀行が担う役割であり、別に詳しく学びます。)
このように政府は、社会全体が安心して生活できるよう経済を支える重要な調整役として機能しているのです。
政府の財源
政府の活動は主に税金で賄われます。日本では消費税、所得税、法人税が代表的な税目です。税については別稿にて詳しく取り上げます。
2024年度(令和6年度)の一般会計予算は約112兆円と過去最大規模となっており、そのうち社会保障関係費が3割以上を占めています。少子高齢化が進む中で、医療や年金にかかる費用は今後さらに増える見通しです。
一方で、日本の国債残高は2024年度(令和6年度)末見込みでおよそ1,200兆円に達しており、先進国の中でも突出して高い水準です。これは将来世代の負担につながるため、財政の持続可能性は大きな課題となっています。
政府と私たちの生活
政府の存在は、私たちの日常生活に深く関わっています。
信号機が整備されて安全に道路を渡れること、進学時に奨学金制度が利用できること、病気のときに健康保険を使って安く診療を受けられること——これらはすべて政府の経済活動の成果です。
家計や企業の活動が「自分や会社のため」であるのに対し、政府の活動は「社会全体のため」である点が大きな違いです。つまり政府は、経済全体の調整役としての立場を担っているのです。
まとめ: 経済循環と国民経済
ここまで、経済を支える三つの主体として「家計」「企業」「政府」を見てきました。
家計は労働や資本を企業に提供して所得を得て、それを消費や貯蓄に回しながら効用(満足)の最大化を目指します。企業は家計から労働力や資本を受け取り、財やサービスを生産して利潤の最大化を追求します。そして政府は、税金や社会保険料を財源として、社会資本の整備や所得の再分配、経済の安定化を担い、社会全体の調整役を果たしています。
これら三つの主体はそれぞれ独立して存在しているわけではなく、貨幣のやりとりを通じて互いに結びついているのが特徴です。家計は企業から財やサービスを買い、企業はその収益をもとに賃金や配当を支払い、政府は税を集めて公共サービスを提供する――こうした流れの循環を経済循環と呼びます。
経済循環が成り立つことで、国全体としての国民経済が形を整えます。言い換えれば、私たちの日常の買い物や企業の投資、政府の政策といった一つひとつの行動が、巡り巡って国の経済活動全体を動かしているのです。
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