同じアイスでも、真夏の放課後はすぐ売り切れるのに、冬の朝は棚に残る。限定グッズは発売日に長い行列ができるのに、ブームが去ると急に山積みになる。私たちは毎日の生活の中で、気づかないうちに「価格」と「買う量」の関係を体験しています。
では、なぜその値段で、どれくらい売れるのか。値段を上げたり下げたりすると、人々の行動はどれほど変わるのか。こうした疑問に、グラフを使って答えます。
本稿では、まず「需要とは何か」から出発し、需要曲線とそのシフト、さらに供給曲線と均衡価格、そして価格の弾力性へと進みながら、日常の「売れる/売れない」の裏側にある仕組みを一歩ずつ解き明かしていきます。
なお、当研究会のコンテンツとしては、以下のコンテンツを事前に読んでおいていただきますと、本稿の理解がより進むと思います。
需要曲線について
需要とは?
需要曲線の話に入る前に、「需要」という言葉について復習をしておきましょう。
需要とは「消費者が買いたいと思う量」のことを言います。ただし、ここでいう「買いたい」というのは単なる憧れや欲望ではありません。実際にお金を払って買おうとする意思と能力をともなっていることが条件になります。たとえば「高級車に憧れているけれど、買うお金がない」という場合、それは需要には含まれません。
では、「この価格なら本当に買いたい」という数量はどうやって分かるのでしょうか。これは消費者一人ひとりの気持ちを直接調べるのではなく、実際の市場データや調査によって把握します。たとえば、自動車が300万円のときに1万台売れたなら、それを「価格=300万円のときの需要量」として記録します。そしてもし価格を280万円に下げたときに1万5千台売れたなら、その分だけ需要量が増えたことになります。さらに企業が行うアンケートや市場調査も参考にされます。
このようにして集められたデータを整理して、「価格と需要量の関係」を線で表したものが需要曲線です。需要曲線は、消費者の「なんとなく欲しい気持ち」を描いたものではなく、市場全体の実際の購買行動に基づいて描かれたグラフだということを押さえておくと理解が深まります。
需要曲線の基本
需要曲線とは、商品の価格と買われる量(需要量)の関係を表したグラフです。
もう少しわかりやすく言うと、「値段が高くなると、どれくらいの人が買わなくなるのか」「逆に値段が安くなったら、どれくらいの人が買うようになるのか」を線で示したものです。
このとき、グラフの縦軸は「価格(プライス)」を表し、横軸は「数量(クオンティティ)」を表します。つまり、グラフを見れば「ある価格のときに、どのくらいの量が消費者に買われるのか」がひと目でわかります。

たとえば、アイスクリームが1個100円なら多くの人が気軽に買いますが、もし500円になったら「今日はやめておこう」と思う人が増えるでしょう。逆に50円になれば「安いから2個買っちゃおう」と考える人も出てきます。こうした「値段と人々の買う気持ちの変化」をグラフにしたものが、需要曲線なのです。
需要曲線が右下がりになるのは偶然ではありません。これには明確な理由があります。一般に、人々は商品の価格が高ければ「買うのを控えよう」と考え、価格が安ければ「買ってみようかな」と思う傾向があります。この当たり前の行動原理を、経済学では「需要の法則」と呼んでいます。
たとえば、映画館のチケットが1,800円なら「ちょっと高いな」と感じる人もいますが、もし1,000円に値下げされれば「友達を誘って行ってみようかな」と思う人が増えるでしょう。価格が下がれば需要量が増える、価格が上がれば需要量が減る。この関係をグラフに描くと、自然に右下がりの曲線ができあがります。
ただし、この法則にも例外はあります。ブランド品のように「高いからこそ価値がある」と見られる商品は、値下げすると逆に需要が減ることがあります。普段は高級感があるバッグでも、「安売りしている」となればブランドの魅力が失われてしまうのです。こうした例外はありますが、基本的には需要曲線が右下がりになるというルールが、私たちの消費行動を理解する出発点になります。
需要曲線のシフト
需要曲線は、基本的には「価格と需要量の関係」を表すものですが、実際の社会では価格以外の要因でも人々の購買行動は変化します。こうした要因の変化によって、需要曲線そのものが右に動いたり左に動いたりします。これを「需要曲線のシフト」と呼びます。
需要が増えて需要曲線が右にシフトするケース
まず、需要が増えて曲線が右にシフトするケースを考えてみましょう。需要が増えると曲線が右にシフトするのは、同じ価格でも買いたい人の数が増えるからです。

まずは人々の収入が増えると需要曲線は右へシフトします。自由に使えるお金が増えるため消費も拡大します。たとえば、アルバイトの時給が上がった高校生なら、コンビニでお菓子を「今日は一つじゃなくて二つ買おう」と考えるかもしれません。大人であれば、ボーナスが入ったときに外食の回数が増えたり、少し高めの洋服を買ったりすることがあります。収入が増えることで、価格が同じでも買う量が自然と増えるのです。
税金が軽くなることも需要を押し上げ、需要曲線は右へシフトします。たとえば消費税が10%から8%に下がったと仮定すると、同じ商品でも以前より安く買える感覚になります。結果として「じゃあまとめて買っておこう」と思う人が増えるわけです。また、所得税が下がって手元に残るお金(可処分所得)が増えれば、生活必需品だけでなく娯楽や趣味にお金を回す余裕が生まれます。
また、流行やブームは、価格に関係なく人々の購買意欲を高め、需要曲線は右へシフトします。最近の例でいえば「ちいかわグッズ」。普段なら1,000円以上するキーホルダーやぬいぐるみを高いと感じる人もいるかもしれませんが、「友達が持っているから」「SNSで話題だから」といった理由で「ちょっと高くても欲しい」と思う人が一気に増えました。同じように、人気キャラクターとのコラボ商品や限定グッズなども、価格が変わらなくても需要が急増するのです。
代替財の値上げも需要曲線を右へシフトさせます。代替財とは「代わりになる商品」のことです。たとえば、紅茶とコーヒーは代替関係にあります。紅茶の価格が大きく上がると「それならコーヒーを買おう」と考える人が増えるため、コーヒーの需要は増加します。交通手段でも同じことが言えます。ガソリン価格が高騰して車に乗るのが割高になれば、代わりに電車や自転車を利用する人が増える、といった形です。
次に補完財の値下げも需要曲線を右へシフトさせます。補完財とは「一緒に使う商品」のことです。コーヒーにとっての砂糖やミルクがその代表例です。もし砂糖やミルクが安くなれば、コーヒーを飲む人が増える可能性があります。別の例では、自動車とガソリンの関係があります。ガソリン代が下がれば「車に乗る回数を増やそう」と考える人が増え、自動車の需要も増えることになるのです。
さらに、季節の変化も需要に大きな影響を与えます。夏になれば、冷たい飲み物やかき氷、アイスクリームの売り上げが伸びます。逆に冬になれば、鍋料理の具材やおでん、コートやマフラーなどの需要が高まります。さらに、イベントや年中行事とも結びつきます。クリスマスシーズンにはケーキやチキンの需要が一気に高まり、節分の時期には恵方巻きがスーパーに並ぶように、季節ごとの需要の増加は非常にわかりやすい例です。ただし、現実の市場ではこうした季節商品は価格自体もよく変わります。クリスマスケーキは12月25日を過ぎると割引され、恵方巻きも2月4日には半額になることがありますよね。けれども、経済学で需要曲線のシフトを説明するときには、価格は一定と仮定した上で「同じ価格でも季節によって売れる量が変わる」という点に注目します。たとえば、同じ100円のアイスクリームでも、冬にはあまり売れませんが、夏には一気に売れる量が増える――これが需要曲線が右にシフトするということなのです。
最後に、あまり今の日本では期待できないのですが、人口の増加も需要が拡大する要因といえます。人口が増えると、それだけ消費者が増えるため需要も拡大します。例えば、ある町に新しい大学が開設されて学生が一気に流入すると、コンビニやスーパーの売り上げが伸びることがあります。逆に都市部に人口が集中すれば、住宅需要や交通需要も拡大します。人口の増減は社会全体の需要に直結する大きな要因なのです。
需要が減って需要曲線が左にシフトするケース
次に、需要が減って曲線が左にシフトするケースを考えてみましょう。需要が減ると曲線が左にシフトするのは、同じ価格でも買いたい人の数が減ってしまうからです。

まず、人々の収入が減れば、自由に使えるお金が少なくなり、消費は縮小します。たとえば、アルバイトのシフトが減って収入が下がった高校生は「今日はお菓子を買うのをやめておこう」と考えるでしょう。大人でも、残業代が減ったりボーナスがカットされたりすれば、外食や旅行の回数を減らすようになります。価格は同じでも「手が届かない」と感じる人が増えるのです。
次に、税金が重くなると、手元に残るお金(可処分所得)が減ります。消費税が上がれば、以前と同じ価格の商品でも「高く感じる」ため、買い控えが起こります。所得税や社会保険料の負担が増えれば、趣味や娯楽に使えるお金が減り、需要は全体的に冷え込むことになります。
流行[ブーム]が去れば、同じ価格の商品でも「欲しい」と思う人が急に減ります。かつて一世を風靡したスイーツやキャラクターグッズも、流行が落ち着けば売れ残ることがあります。「今はもう人気じゃないから買わなくていいや」という心理が働き、需要が縮小していくのです。
また、代替財、つまり「代わりになる商品」が安くなると、元の商品は売れにくくなります。例えば、パンの価格が大幅に下がれば「それならパンを買おう」と考える人が増え、おにぎりの需要は減ってしまいます。交通手段でも同じで、電車の運賃が割引されれば、同じ価格の高速バスを使う人は減るでしょう。
さらに、補完財、つまり「一緒に使う商品」が高くなると、需要は減ります。代表例は自動車とガソリンです。ガソリン代が大幅に上がれば「車に乗る回数を減らそう」と考える人が増え、同じ価格の自動車でも買う人が少なくなります。同様に、スマートフォンの通信料が上がれば、スマホ本体の購入を控える人が出てくることもあります。
季節が移り変わることで需要が冷え込むこともあります。クリスマスケーキは12月25日を過ぎると一気に売れなくなり、節分を過ぎれば恵方巻きは棚から消えます。同じ価格であっても「もう時期が終わったからいらない」と思う人が大半になるのです。経済学では、この現象を需要曲線の左シフトとして捉えます。
最後に、人口が減ることも需要の縮小につながります。過疎化が進む町では、同じ価格の商品でも買い手そのものが少なくなるため、スーパーや商店の売り上げは落ち込みます。社会全体で見ても、人口が減れば住宅需要や交通需要も小さくなり、経済全体の需要は縮小します。
このように、需要が減る要因は「需要が増える要因」のちょうど逆です。
小括
ここで需要曲線の右シフトと左シフトについてまとめてみましょう。
- 右シフトは「同じ価格でも前より多く売れる」状態
- 左シフトは「同じ価格でも前より売れなくなる」状態
を表しています。

価格の上下による変化ではなく、価格以外の要因によって需要曲線そのものが動く――この視点を持つことが大切です。
供給曲線について
供給曲線の話に入る前に、「供給」という言葉について確認しておきましょう。
供給とは?
供給とは「生産者や企業が市場に出して売りたいと思う量」のことを指します。ここで大事なのは、「作れる量」や「在庫として持っている量」そのものではなく、実際にその価格なら売りに出してもよいと判断した量である、という点です。たとえば、農家が倉庫に野菜を1000個持っていたとしても、市場価格があまりに安ければ「こんな値段では採算が合わない」と考えて出荷を控えることがあります。このとき、倉庫にある1000個すべてが供給量に数えられるわけではないのです。
では、「この価格なら本当に売りたい」と思う数量はどうやって分かるのでしょうか。これも需要と同じく、生産者一人ひとりの気持ちを直接聞くのではなく、実際の市場データや企業の行動から把握します。たとえば、ある野菜が1個100円で市場に1000個出荷されていれば、それを「価格=100円のときの供給量」として記録します。翌月、価格が150円に上がったときに1500個出荷されていれば、「価格が上がったことで供給量が増えた」と判断できるわけです。また、企業の生産計画や統計調査によって供給の傾向が調べられることもあります。
このように整理されたデータをもとに、「価格と供給量の関係」を線で表したものが供給曲線です。供給曲線は、生産者の「作れるもの全部」を示したものではなく、市場全体の実際の販売行動や生産活動に基づいて描かれたグラフであることを理解しておくとよいでしょう。
供給曲線の基本
供給曲線とは、商品の価格と市場に出される量(供給量)の関係を表したグラフです。
もう少しわかりやすく言うと、「値段が高くなると、どれくらいの量を企業が売りに出そうとするのか」「逆に値段が安くなったら、どれくらいしか売りに出さなくなるのか」を線で示したものです。
このとき、グラフの縦軸は「価格(プライス)」を表し、横軸は「数量(クオンティティ)」を表します。つまり、グラフを見れば「ある価格のときに、生産者がどのくらいの量を市場に供給しようとするのか」がひと目でわかります。

たとえば、魚が1匹500円で売れるとすれば、漁師は「これならたくさん市場に出そう」と考えます。しかし、もし100円にしかならなければ「そんな安値では手間がかかるだけだ」として、出荷を控えるかもしれません。こうした「値段と生産者の供給意欲の変化」をグラフにしたものが、供給曲線なのです。
供給曲線が右上がりになるのは偶然ではありません。これには明確な理由があります。一般に、生産者は商品の価格が高ければ「利益が出るからもっと作ろう」と考え、価格が低ければ「儲からないからやめておこう」と思う傾向があります。この当たり前の行動原理を、経済学では「供給の法則」と呼んでいます。
たとえば、農家がトマトを出荷する場合を考えてみましょう。トマト1箱の市場価格が3000円なら「できるだけ多く出荷しよう」と考える農家が増えますが、もし1000円にしかならなければ「採算が合わない」として出荷量を減らす農家が増えるでしょう。価格が高ければ供給量が増え、価格が低ければ供給量が減る。この関係をグラフに描くと、自然に右上がりの曲線ができあがります。
ただし、この法則にも例外があります。代表的なのは労働供給のケースです。時給が上がれば多くの人が「もっと働こう」と考えますが、あまりに高すぎると「これだけ稼げれば十分」と感じて労働時間を減らす人もいます。このように、供給が必ずしも右上がりにならない特殊な場合も存在しますが、基本的には供給曲線が右上がりになるというルールが、生産者側の行動を理解する出発点になります。
供給曲線のシフト
供給曲線は、基本的には「価格と供給量の関係」を表したものです。価格が高ければ生産者はたくさん供給し、価格が安ければ供給を控える――これが供給の法則です。
しかし、実際の社会では、価格以外の要因によっても生産者の行動は変化します。技術の進歩や自然条件、税制や労働力の状況などによって、同じ価格であっても供給できる量が増えたり減ったりするのです。こうして曲線そのものが右や左に動くことを「供給曲線のシフト」と呼びます。
供給が増えて供給曲線が右シフトする場合
まず、供給が増えて曲線が右にシフトするケースを考えてみましょう。供給が増えるとは、同じ価格でもより多くの量を市場に出せるようになることを意味します。

供給が増えて供給曲線が右シフトする具体例を考えてみましょう。
まずは技術革新です。新しい技術が導入されると、生産効率が大幅に上がります。たとえば工場にロボットが導入され、これまで人間が10時間かけていた作業を3時間でこなせるようになれば、同じ価格でも供給できる量は増えます。スマートフォンの部品製造や自動車工場の自動化などが代表例です。
次に原材料費の値下げです。原材料が安く仕入れられるようになれば、生産コストが下がります。その分だけ多くの生産を行えるため、供給は増加します。たとえば、小麦の国際価格が下がると、パンや麺類を製造する企業はコストを抑えてたくさん供給できるようになります。
続いて、豊作・豊漁の場合も右にシフトします。自然条件が良ければ収穫量や漁獲量が増え、供給が拡大します。お米が豊作の年には市場に大量の米が出回り、魚が豊漁のときはスーパーに安く大量の魚が並びます。これは典型的な供給の右シフトです。
税金が安くなった場合、生産者にはどのような影響がありそうでしょうか?減税して企業が払う法人税が軽減されると、手元に資金が残りやすくなり、その分を生産活動に回せます。例えば、税制改正で企業負担が減れば、新しい工場を建てたり雇用を増やしたりでき、供給は拡大します。
生産設備の拡大をした場合を考えてみましょう。工場を増設したり、新しい生産ラインを導入したりすることで、生産能力がそのものが向上します。たとえば半導体メーカーが新工場を建設すれば、同じ価格でも出荷できる半導体の量は増え、供給曲線は右にシフトします。
最後に、十分に労働力の確保ができれば、アルバイトや社員が集まれば飲食店はフル稼働できますし、工場のラインも止まらずに稼働できます。人手不足が解消されると、同じ価格でも供給量が増えるため、右シフトが起こります。
供給が減って供給曲線が左シフトする場
反対に、供給が減ると曲線は左にシフトします。これは同じ価格でも市場に出せる量が減ってしまうことを意味します。

ここでも、供給が減って供給曲線が左シフトする具体例を考えてみましょう。
まずはマンネリ(技術停滞)です。新しい技術が導入されず、古い設備ややり方のままでは効率が落ち、生産は思うように伸びません。たとえば他社が最新機械を導入して生産性を上げているのに、自社が古い設備に頼り続ければ、供給できる量は相対的に減ってしまいます。
次に、原材料費の値上げです。原油・小麦・金属などの原材料価格が上がると、コストが増えすぎて生産を抑えざるを得ません。たとえば原油価格が急騰すれば、ガソリンの生産量は減少します。パンの材料となる小麦が高騰すれば、パン屋も以前ほど供給できなくなります。
天候不順や災害で農産物が不作になったり、漁獲量が減ったりすると、市場に出せる量は減少します。台風でリンゴの収穫量が減ったり、海水温の変化でサンマが不漁になったりするケースが典型例です。
税負担が増える、要するに増税(法人税や生産関連の税負担)が行われれば企業の手元資金は減り、設備投資や生産拡大が難しくなります。たとえば消費税やエネルギー関連税が上がると、電力会社や製造業はコストが増えて供給を抑えることになります。
工場を閉鎖したり、生産ラインを減らしたりして生産設備の縮小をすると、そもそもの生産能力が下がります。経営難で工場を整理したり、採算が合わずに事業撤退した場合は、市場に供給される量が減ります。
最後に、少子高齢化や人手不足の影響で労働力が確保できない場合、生産そのものが滞ります。飲食店がバイト不足で営業時間を短縮したり、工場が人員不足で生産ラインを止めざるを得なかったりするのがその例です。
小括
ここで供給曲線の右シフトと左シフトについてまとめてみましょう。
- 右シフトは「同じ価格でもより多く供給できる」状況
- 左シフトは「同じ価格でも供給できる量が減る」状況
を表しています。
均衡価格について
均衡価格とは?
需要曲線と供給曲線を同じグラフに描くと、必ず交わる点が現れます。この交点を「均衡点」と呼び、そこで決まる価格を「均衡価格」といいます。

均衡価格とは、買いたい人(需要者)が求める量と、売りたい人(供給者)が出そうとする量がぴったり一致する理想的な価格のことです。言い換えれば、市場において「品不足も売れ残りもない、ちょうどいい価格」が均衡価格です。
均衡価格より高すぎるとどうなるか
もし市場価格が均衡価格より高い場合、グラフ上ではP₁のような点にあたります。
ここからはグラフを見ながら一緒に確認していきます。

まず、P₁の横の点から右に線を伸ばすと、供給曲線S(ピンクの線)と交わります。その交点を下におろすと数量Q₁にたどり着きます。これは「生産者がこの価格ならQ₁だけ供給したい」と考える供給量です。市場価格を上げれば儲かると考えたのでしょうね。
一方で、同じP₁から左下がりの需要曲線D(青い線)と交わる点を下におろすと、数量Q₂にたどり着きます。これは「消費者がこの価格ならQ₂しか買わない」と考える需要量です。消費者としては市場価格が上がると買い控えようとするマインドが働きますね。
ここから少し考えてみましょう。価格がP₁のときには、グラフから供給量Q₁が需要量Q₂を上回っていることが分かります。つまり、生産者は「この値段ならたくさん作って売りたい」と思ってQ₁まで商品を市場に出していますが、消費者のほうは「そんなに高い値段では買えないな」と考えて、実際に買う量はQ₂にとどまってしまうのです。
供給量のほうが需要量よりも多いということは、その差の分だけ商品が売れ残ることになります。いわば「市場に余りが出てしまう」状態です。この現象を経済学では「超過供給」と呼びます。
売れ残りが続くと、生産者は在庫を抱え込み、利益を得られなくなります。そこで、生産者は値段を下げざるを得ません。こうして価格は次第に下がり、均衡価格に近づいていきます。
均衡価格より低すぎるとどうなるか
今度は市場価格が均衡価格より低い場合を考えてみましょう。グラフ上ではP₂のような点にあたります。ここでもグラフを追いかけながら確認していきましょう。

まず、P₂の横の点から右に線を伸ばすと、供給曲線S(ピンクの線)と交わります。その交点を下におろすと数量Q₂にたどり着きます。これは「生産者がこの価格ならQ₂までしか供給できない」と考える供給量です。価格が安すぎると「これ以上作っても利益にならない」と思うので、出回る商品は少なくなるのです。
一方で、同じP₂から左下がりの需要曲線D(青い線)と交わる点を下におろすと、数量Q₁にたどり着きます。これは「消費者がこの価格ならQ₁も欲しい」と考える需要量です。安くなれば「今のうちに買っておこう」と考える人が増えるので、需要は一気に膨らみます。
ここから考えてみると、価格がP₂のときには需要量Q₁が供給量Q₂を上回っていることが分かります。つまり消費者は「もっと欲しい」と思っているのに、生産者が用意できる量はそれに届かず、市場では品不足が生じます。この状態を「超過需要」と呼びます。
品不足が続くと、消費者同士が商品を取り合うようになり、価格は自然に上がっていきます。そうすることで次第に供給量が増え、需要量は抑えられ、やがて価格は均衡価格に近づいていくのです。
均衡価格と「神の見えざる手」
ここまで見てきたように、市場価格が均衡価格より高すぎると、供給量は需要量を上回り「超過供給」が発生します。商品が売れ残るため、生産者は価格を下げざるを得ません。逆に、市場価格が均衡価格より低すぎると、今度は需要量が供給量を上回り「超過需要」が生まれます。品不足が起きることで、消費者同士が商品を取り合い、価格は自然に上がっていきます。
つまり、市場価格が均衡価格からずれてしまっても、そのズレを修正するように価格は自動的に動いていくのです。余れば値下がり、不足すれば値上がりする。この価格の自動調整によって、やがて「需要量=供給量」となる点に落ち着きます。この点が「均衡価格」です。
この仕組みを18世紀の経済学者アダム・スミスは「神の見えざる手」と表現しました。誰かが「ここが適正な価格だ」と決めるわけではなく、消費者と生産者がそれぞれ自分の利益を求めて行動するうちに、市場全体のバランスがまるで見えない手に導かれるかのように整っていくのです。
ここで重要なのは、価格が単なる「お金の数字」ではなく、需要と供給のアンバランスを調整する役割を持っているという点です。売れ残り(超過供給)や品不足(超過需要)が生じると、価格はそれに応じて動きます。この仕組みを経済学では「需要供給の法則」と呼びます。需要と供給が価格を動かし、価格がまた需要と供給のバランスを整えていく――この二重の関係こそが、市場メカニズムの核心なのです。
価格の弾力性とは?
ここまで見てきたように、需要と供給の関係によって価格は自動的に調整され、やがて均衡価格に落ち着きます。しかし、同じように価格が変化しても「需要や供給がどのくらい動くのか」は商品によって大きく違います。この違いを表すのが「価格の弾力性」です。
「弾力性」という言葉からもわかるように、価格が変化したときに需要量や供給量がどれくらい伸び縮みするかを示す考え方です。
需要の価格の弾力性
まずは需要の側から見てみましょう。
例えば、毎日の生活に欠かせないお米や塩のような必需品は、値段が多少上がっても「やめられない」ので買う量はあまり変わりません。このような商品は「価格弾力性が小さい(=需要が価格にあまり反応しない)」といえます。
一方で、ブランドバッグや旅行といったぜいたく品はどうでしょうか。価格が少し上がるだけで「やめておこう」と考える人が増え、逆に値段が下がれば一気に需要が高まります。こうした商品は「価格弾力性が大きい(=需要が価格に敏感に反応する)」のです。
供給の価格の弾力性
供給の側にも弾力性があります。例えば、農作物のように「すぐに増産できないもの」は価格が上がっても供給量を大きく増やせません。天候や収穫時期に左右されるからです。こうしたものは供給の弾力性が小さいといえます。
一方、工場で大量生産できるスマートフォンのような商品なら、価格が上がれば「もっと作ろう」とすぐに生産量を増やすことができます。この場合は供給の弾力性が大きいのです。
グラフで見る弾力性
グラフで表すと、需要曲線や供給曲線が「なだらか」な場合は弾力性が大きく、「急」な場合は弾力性が小さいことを意味します。
まず、曲線が水平に近い場合を考えてみましょう。このときは価格がほとんど変わらなくても、数量だけが大きく動きます。需要の例でいえば、ペットボトル飲料のように競合商品が多いものです。少しでも値段が上がれば「別の商品にしよう」と簡単に切り替えられるため、需要量が大きく増減します。供給の例では、工業製品のように大量生産ができるものが分かりやすいでしょう。需要が増えても減っても、価格を変えずに数量だけを調整することができます。つまり、水平に近いときは「価格に敏感=弾力性が大きい」状態です。

一方で、曲線が垂直に近い場合を見てみましょう。このときは価格が大きく動いても、数量はほとんど変化しません。需要の例では、水や電気、医薬品のような生活必需品が典型です。値段が上がっても「必要だから買わざるを得ない」ため、需要量はほとんど変わりません。供給の例では、コンサート会場の座席数や、天候に左右される農作物など、供給量が物理的に決まっていて動かせないケースがあります。いくら価格が上がっても下がっても、供給できる量は変わらないのです。つまり、垂直に近いときは「価格に鈍感=弾力性が小さい」状態です。

このように、グラフの形が水平に近いのか、それとも垂直に近いのか(お示ししているグラフだとまさに水平と垂直ですが…)を見るだけで、数量が価格に対してどのくらい敏感に反応するのかが理解できます。
価格の弾力性の活用
価格の弾力性は単なるグラフ上の話ではなく、現実の政策やビジネスにも大きく関わっています。
たとえば、政府が税金をかけるとき。タバコやお酒のように需要の弾力性が小さい商品は、多少値段が上がっても買う人が減りにくいので、税収を安定して確保できます。逆に、弾力性が大きい商品に高い税金をかけると、人々はすぐに買わなくなってしまい、税収が思ったほど増えないこともあります。
ビジネスでも同じです。スマートフォンやファッションのように弾力性が大きい商品は、値下げをすると売上が一気に伸びることがあります。そのため企業はセールや割引を戦略的に行うのです。一方で、生活必需品のように弾力性が小さい商品は、価格を大きく変えなくても安定した売上が見込めます。
小括
価格の弾力性とは、価格が変わったときにどれくらい需要や供給が反応するかを示すものです。生活必需品は弾力性が小さく、ぜいたく品や代替のききやすい商品は弾力性が大きい傾向にあります。
つまり、同じ「値段の変化」でも商品ごとに市場への影響は全く違うのです。これを理解すると、「なぜある商品の価格はよく変わるのに、別の商品はほとんど変わらないのか」という疑問にも答えられるようになります。
まとめ
本稿でたどったお話はとてもシンプルです。
価格が変われば、買いたい量と売りたい量が動く。その二つの線が交わるところで市場は落ち着く。価格が高すぎれば売れ残りが、低すぎれば品不足が生じ、やがて価格は「ちょうどよい」均衡へ引き寄せられる。ここには、消費者と生産者が自分の利益を求めて行動する結果として、市場全体が整っていくというダイナミックな調整の力が働いています。グラフの線は、抽象的な記号ではなく、私たちの選択と企業の判断が描き出した軌跡なのです。
さらに一歩進めると、同じ価格変化でも反応の大きさは商品によって違う、という視点(価格の弾力性)が見えてきましたね。必需品は価格に「鈍感」、ぜいたく品や代替がききやすい商品は「敏感」。この違いは、税や補助金、セールの設計、さらには社会全体の資源配分にも影響します。
だからこそ、高校の「公共・政治経済」で学ぶ一本の需要曲線・供給曲線は、現実の政策やビジネスを考える入口でもあるのです。




