私たちは毎日のようにお金を使っています。コンビニでおにぎりを買ったり、スマホ料金の引き落としがあったり、給料が銀行口座に振り込まれたりします。こうした「お金の移動」は偶然起こっているのではなく、社会全体のしくみによって支えられています。その一つが「金融」です。
金融とは、家計・企業・政府といった経済の担い手のあいだで、お金が足りているところから、足りていないところへ移動するしくみのことです。たとえば、私たちが銀行に預金をすると、そのお金は企業の投資や住宅ローンなどに貸し出され、社会全体で活用されていきます。つまり金融とは、「お金を貸したい人」と「お金を借りたい人」をつなげる社会の血管のような存在なのです。
しかし、金融は大きな企業の話だけではありません。実はコンビニやネットショップで行っている「お金の支払い」も、金融の一部です。
そこで本記事では、金融の中でも最も身近なテーマである「代金の決済方法」について学んでいきます。
代金の決済とは何か
「決済」とは、商品やサービスの代わりにお金を支払い、取引を完了させることです。たとえば、あなたが文房具屋さんでノートを買ってレジでお金を渡した瞬間、その取引は決済によって終わったことになります。
では、決済はすべて「現金で支払う」だけなのでしょうか。答えは「いいえ」です。現代の社会では、現金のほかにも、銀行振込、カード、手形、小切手など、さまざまな方法で代金を支払います。特に企業同士の取引では、現金を直接渡すことはほとんどありません。
なぜなら、以下のような事情があるからです。
- 取引金額が大きくなるほど、現金を運ぶことは危険で手間がかかる。
- 企業は商品を受け取ってすぐに支払えるとは限らない(資金繰りという問題)。
- 支払いの期日を決めて、後からまとめて払う方が効率的な場合が多い。
そのため、「代金の決済方法」は金融の基礎のひとつとして非常に重要です。これから、現金決済、手形、小切手といった方法を順番に学んでいきます。
現金による決済
現金での支払いはなぜ「基本」なのか
代金の決済方法の中で、最も身近でわかりやすいのが現金による支払いです。スーパーやコンビニで買い物をするとき、財布からお金を渡して商品を受け取る――このように、その場でお金と商品を交換することを「現金決済」と呼びます。
たとえば、宅配便で荷物を受け取るときに配達員へその場で代金を払う「代引き(代金引換)」も現金決済の一つです。日常生活では当たり前に見える方法ですが、金融の世界では、この「その場で支払いが終わる」ことが重要な意味を持っています。
企業間の取引では、現金をその場で払わないことが多い?
ただし、企業同士の取引では、必ずしもその場でお金を渡すわけではありません。
確かに、現金による決済には、分かりやすく安心感があるという大きな利点があります。
しかし、企業同士の取引になると、私たちのようにその場で現金を出して支払うことはむしろ少数派です。たとえば、ある会社が別の会社に商品や材料を納入した場合、その日のうちに代金が支払われることはほとんどありません。ふつうは「月末にいったん取引を締めて、代金は翌月の末日に支払います」といった形で、支払う日(支払期日)をあらかじめ約束しておくのが一般的です。
ではどうして企業は現金をその場で払わないのでしょうか?
まず取引で動く金額の高さが挙げられます。たとえば、もし取引額が100万円、200万円といった大きさになったとしたら、その現金をカバンに入れて街中を歩くのは本当に安全と言えるでしょうか。盗難や紛失の危険を考えると、現金を持ち運ぶことそのものがリスクになります。
さらに、企業では一日に何件もの取引が行われます。そのたびに現金を数え、封筒に詰めて相手の会社や銀行へ届ける――そんな作業を繰り返していたら、時間も人手もいくらあっても足りません。現金を扱うというだけで、思った以上に手間とコストがかかるのです。
もう一つ大事な点があります。現金で支払ってしまうと、取引の記録が紙やデータとしてはっきり残らないことがあります。銀行振込であれば通帳や明細に記録が残りますが、現金の場合、領収書や帳簿をきちんと管理しなければ、どこでいくら使ったのかがわからなくなりやすい。企業にとっては、会計処理や税金の計算にも支障が出てしまう恐れがあります。
このように、現金による決済はわかりやすくて便利な一方で、上に挙げた理由で大きな課題を抱えているのです。
この支払いは、多くの場合、現金を直接手渡すのではなく、銀行口座から相手の口座へ送金する銀行振込や、あらかじめ合意した日に銀行が自動でお金を引き落とす口座振替(自動引き落とし)によって行われます。紙幣や硬貨を手にしていなくても、銀行口座の残高という形でお金が移動しているため、これも広い意味では現金による決済に含まれます。
手形による決済
「手形」とは何か――“後で払う”ことを約束する紙
手形とは、「一定の期日に、いくら支払うか」を約束した有価証券です。ポイントは、「その場で現金を渡さず、あとで払う約束を紙(証券)にして相手に渡す」というところにあります。企業どうしの取引では、商品を先に受け取り、代金は月末や翌月末など“期日”にまとめて支払うことがよくあります。そんなときに用いられてきたのが手形です。
手形には金額、満期(支払期日)、振出日(作成日)、支払場所(通常は銀行)、そして「誰が」「誰に」支払うかが書かれます。約束を目に見える形にして、第三者に譲る(売る)こともできる――これが「紙の力」であり、現金を運ばなくても大口の取引を安全に回すための知恵でした。
為替手形と約束手形――“誰が払うか”の違い
手形には大きく為替手形と約束手形の二種類があります。違いは、「実際にお金を払うのは誰か」という点です。
まず為替手形は、振出人(手形を作る人)が、支払人(たいていは「銀行」)に向けて「期日にこの人に支払ってください」と支払いを委託する手形です。受取人(手形の所持人)は、期日になったら銀行へ行き、その手形に書かれた金額を受け取ることができます。振出人は、自分の当座預金(企業が決済用に用意する口座。普通預金と違い利息は基本つきません)から支払いが行われるようにしておきます。ここで“銀行が払う”という仕立てになっているのが、為替手形の特徴です。
一方の約束手形は、振出人である企業本人が直接、受取人に支払う約束を紙にするものです。期日が来たら「私(振出人)があなた(所持人)に支払います」と約束し、当座預金に預けてあるお金が支払いのもとになる資金(これを“支払原資”といいます)になります。
どちらの手形にも共通する大切な点は、満期(支払期日)が明確に書かれていることです。企業間では「受け取った商品代金を、○月○日に支払います」という時間の約束こそが取引の信用を支えています。
期日前に現金が必要なとき――「手形割引」という現金化の知恵
受取人(手形の所持人)である企業にとって、手形は期日にお金が受け取れる権利です。しかし、事業を回していると、次の仕入れや人件費などでいま現金が必要になることがあります。そんなときに使われるのが手形割引です。
手形割引とは、期日前の手形を銀行に持ち込み、利息(割引料)と手数料を差し引いた金額で買い取ってもらい、早めに現金化することをいいます。
たとえば、額面100万円の手形(満期が3か月後)を、年6%の割引率で割り引くとします。年6%とは、「1年間お金を借りたら6%の利息を払う(あるいは引かれる)」という意味です。ところが、今回の手形は1年間ではなく3か月(=1年の4分の1)で満期になります。そこで、1年分の利息のうち4分の1だけを計算するわけです。
式にすると、
100万円 × 6% ×(3/12)=1万5千円
となり、これが3か月分の利息にあたります。
銀行はこの利息(=割引料)と、数百円〜数千円の手数料を差し引いて手形を買い取ります。したがって、実際に受け取れる金額はおよそ98万数千円となります。つまり、3か月待てば100万円が入りますが、早く現金に変える代わりに、利息分を“先に支払う”という仕組みになっているのです。
「不渡り」と信用――約束を破ると何が起きるか
ここで最も重い話をします。
もし満期になっても支払いに必要な資金が当座預金に足りず、手形の支払いができなかった場合、その手形は不渡りとなります。これは約束を果たせなかったことを意味し、企業の信用は大きく傷つきます。一般に、日本では一定期間内に不渡りが2回発生すると、銀行取引が停止され、事実上、通常の取引がほぼ不能になります。手形は、ただの紙ではありません。期日というルールを守る力が、その紙に価値を与えているのです。
だからこそ、企業は満期に向けて資金を用意し、納期と同じように「期日厳守」を最優先します。納品を受けておきながら「お金がありませんでした」では、次の取引は二度と来ません。手形は、企業の資金繰り(お金の出入りの計画)と信用管理の要でもあるのです。
現金と手形の違い――“その場の確実さ”か“時間の約束”か
現金は、受け渡しの瞬間に取引が終わる“確実さ”が強みです。
これに対して手形は、“あとで支払う”という時間の約束を通じて、企業どうしの大きな取引を無理なく回すための道具です。
現金を運ぶ危険や手間を避け、帳簿の記録も明確に残せます。しかし、期日を守る責任は重く、守れなければ不渡りという形で信用に致命傷を負います。手形は、便利さと緊張感が同居する決済手段なのだ、と覚えておいてください。
手形の問題点
しかし、ここで一つ考えてみてください。手形はたしかに便利で、現金を運ばずに取引を進められるという大きな利点があります。でも同時に、手形には「紙」であるがゆえの弱点も残っています。
例えば、誰かの机の中でなくなることもあれば、郵送中に届かないこともあります。印鑑を偽造されれば、まったく関係のない人が勝手に手形を使ってしまう危険もあります。さらに、手形を処理する銀行や企業の事務作業には、印紙税・郵送・保管・記帳など多くのコストがかかります。
電子記録債権(でんさい)とは?
こうした課題を解決するために、現在の企業社会では手形や小切手を紙ではなく、「データでやり取りする仕組み」に変えていく動きが進んでいます。それが電子記録債権(でんさい)と呼ばれる制度です。
電子記録債権とは、一言でいえば「手形の電子版」です(小切手のような“即時の支払い”には対応しません)。紙も印鑑も使わず、銀行などのシステム上で「◯月◯日に△△社が□□社に100万円支払う」という情報を記録し、譲渡や割引もデータのままで行います。紛失・偽造の心配がなく、郵送も不要で、処理はすべてオンラインで完結します。
政府はすでに、「紙の約束手形や小切手の利用を西暦2026年(令和8年)までにゼロに近づける」という方針を打ち出しています。
つまり、手形は完全に消えるのではなく、その考え方――信用を紙に記録して取引する仕組み――が、形を変えてデジタルの世界に受け継がれようとしているのです。
小切手による決済とは何か
小切手とは――すぐに使える約束の紙
小切手とは、振出人(支払う側)が自分の当座預金から、受取人にすぐお金を支払うよう銀行に命令する証券です。言いかえれば、「この紙を銀行に持っていけば、すぐお金として受け取ってもいいですよ」という支払命令書です。
ここまで学んできた手形と同じく、企業は現金を直接運ばずに取引を行うことができます。しかし、手形との決定的な違いは、支払いが「後日」ではなく「ただちに」できるという点にあります。つまり、手形が“時間の約束”なのに対し、小切手は“今すぐ支払う権利”なのです。
手形とどう違うのか
ここで改めて、手形と小切手の違いをわかりやすく整理してみます。
| 比較項目 | 手形(為替手形・約束手形) | 小切手 |
|---|---|---|
| 支払いのタイミング | 期日(未来)に支払う | 受け取った瞬間から支払える(即時) |
| 内容 | 「後で払います」という約束 | 「今払ってください」という命令 |
| 主な目的 | 商品の代金を後払いにする | 即時の支払い・現金の代わり |
| 使用される口座 | 主に当座預金 | 同じく当座預金 |
| 支払う人 | 約束手形=自分 為替手形=銀行 | 銀行が振出人の当座預金から支払う |
たとえば、クイズ番組や宝くじの表彰式で、当選者に巨大なボードで「○○賞100万円!」と書かれた紙が渡される映像を見たことがありませんか。あれはイメージですが、現実にはあの紙に相当するものが小切手です。受け取った側は、銀行にもっていけばただちに換金できます。
小切手にも“紙ならではの限界”がある
小切手は便利な決済手段ですが、同時にいくつかの弱点も抱えています。
たとえば、小切手も手形と同じように紙である以上、落としたり盗まれたりする危険が常につきまといます。現金そのものほどではないにせよ、もし他人に拾われてしまえば、偽造された印鑑などを用いられれば不正に換金されるおそれも否定できません。実物が存在するということは、それだけでリスクの種になります。
また、紙であるがゆえに、取引のたびに作成・押印し、取引先まで郵送し、受け取った側はそれを保管し、さらに銀行に持ち込むという手間が発生します。特に企業間取引では、一枚一枚の小切手を担当者が管理し、どこに保管されているのか、支払い済みかどうか、といった情報を帳簿と照らし合わせて確認する必要があり、事務処理も少なくありません。
さらに、小切手には偽造される可能性も存在します。振出人の銀行印を模倣して作られた不正な小切手が使われた場合、それを防ぐ手段は限られており、裁判や損害の補償問題に発展することもあります。
加えて、小切手を振り出す際には、印紙税という税金が課されます。高額な決済になればなるほど印紙の額も大きくなり、企業にとってはコストの負担となります。
そして意外と大きな負担となるのが、記録の管理です。現金のように「渡したら終わり」ではなく、小切手は「いつ・誰に・どの金額・どの口座から支払われたか」という情報を、会社の帳簿に正確に残しておく必要があります。紙のやり取りである以上、記録の整理や保管の作業も複雑になりがちです。
このようなリスクや手間を減らすため、小切手の世界でも電子化が進んでいます。
もっとも、電子記録債権(でんさい)は「期日を決めて支払う手形の電子版」であり、小切手のような“すぐ払う”仕組みには対応していません。
そこで、小切手に代わる即時決済の方法として、銀行振込やインターネットバンキング、キャッシュレス決済が広く使われるようになりました。
いまでは企業同士の取引も、請求書の電子化やオンライン振込で完結するのが一般的です。
紙の小切手や手形は姿を消しつつありますが、「信用を記録して取引する」という考え方は、電子データの形で確実に受け継がれているのです。
まとめ
お金の支払い方ひとつをとっても、そこには社会の仕組みと時代の変化が映し出されています。
現金は「その場で確実に支払う」という信頼のかたち。
手形は「時間を超えて約束する」という信用のかたち。
そして小切手や電子記録債権は、それらをより安全に、効率よく実現するための工夫でした。
いま、紙の手形や小切手は姿を消しつつありますが、信用を記録し、人と人・企業と企業をつなぐという金融の本質は変わっていません。テクノロジーが発展しても、金融の根底には「相手を信頼し、約束を守る」という人間的な関係が息づいています。
お金の流れを理解することは、社会の動きを理解することです。
私たちが普段何気なく行っている「支払い」や「受け取り」の背後には、経済を支える見えない血管のようなネットワークが脈打っています。
金融を学ぶとは、そのしくみを知り、より良い経済の循環を考える第一歩なのです。

