「ポツダム宣言」第10項の内容を和訳&解説してみました

ポツダム宣言現代語訳をしてみました 「ポツダム宣言」全文試訳
ポツダム宣言現代語訳をしてみました
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執筆 & 訳: 加代 昌広かしろ まさひろ(KÁSHIRO Masahiro)

ポツダム宣言の全文の内容を和訳してみるシリーズです。

今回はポツダム宣言の第10項を和訳してみます。構成は、英文、公式邦訳、試訳とその解説の順になっています。

なお、ポツダム宣言が作成された背景については、「ポツダム宣言の全文をわかりやすく解説してみました」というコンテンツでくわしく解説しましたので、そちらをご覧下さい。

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英文

(10) We do not intend that the Japanese shall be enslaved as a race or destroyed as a nation, but stern justice shall be meted out to all war criminals, including those who have visited cruelties upon our prisoners. The Japanese Government shall remove all obstacles to the revival and strengthening of democratic tendencies among the Japanese people. Freedom of speech, of religion, and of thought, as well as respect for the fundamental human rights shall be established.

公式邦訳

十、吾等ハ日本人ヲ民族トシテ奴隷化セントシ又ハ国民トシテ滅亡セシメントスルノ意図ヲ有スルモノニ非サルモ吾等ノ俘虜ヲ虐待セル者ヲ含ム一切ノ戦争犯罪人ニ対シテハ厳重ナル処罰加ヘラルヘシ
日本国政府ハ日本国国民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ対スル一切ノ障礙ヲ除去スヘシ
言論、宗教及思想ノ自由並ニ基本的人権ノ尊重ハ確立セラルヘシ

解説

第10項は3つの文から成立する条項なので、1文ずつに分けて解説をしていこうと思います。

We do not intend that the Japanese shall be enslaved as a race or destroyed as a nation, but stern justice shall be meted out to all war criminals, including those who have visited cruelties upon our prisoners.

まず最初の文の訳読を行いましょう。

We do not intend that S+Vで、「私たちはthat以下のことを意図しない」という意味になります。

that節の中を見ていきます。

the Japanese shall be enslaved as a race or destroyed as a nationについて見ていきます。enslaveというのは「奴隷化する」という動詞。raceは「人種」、nationというのは「国民」という意味です。したがって、「日本人は人種として奴隷化されたり、あるいは国民として絶滅させるつもりはありません」と解釈できます。

butの後を見ていきます。

いきなりですが、イディオムです。mete out justice to ~で「~を裁く」という意味があります。これはstern justice shall be meted out to all war criminalsは、能動態に直すとmete out stern justice to all war criminalsという形になります。受動態になるとイディオムを見破りにくくなります。そこで、今のように能動態にしてイディオムだと分かるようにするのがテクニックです。sternは「厳しい」という意味の形容詞です。大学受験の英単語帳では上級者レベルの単語帳に掲載されています。

ではこれをそのまま能動で訳せば「全ての戦争犯罪者を厳しく裁くものとします」となります。これを受動に直すと、「全ての戦争犯罪者は厳しく裁かれるものとします」となります。

including以降を見ていきましょう。includingは「~を含めて」という分詞構文的なポジションにある単語。those who…で「…の人たち」。visitは「訪問する」という意味ではなく、「(苦痛など)を加える」という意味になります。神や権力者が何かの目的で「訪れる、視察する」という意味でも使われていました。特に、神が人間を「訪れる」際には、祝福だけでなく罰や災難をもたらすこともありました。ここから、特定の行動や出来事が「罰や苦痛をもたらす」という意味が付け加えられたのだそうです。何かが「訪れる」ことが、その結果として良いことも悪いことも起こり得るという考え方が背景にあります。特に、災難や病気が突然人々に降りかかるとき、そのような出来事を擬人化して「訪れた」と表現することが一般的だったのだそうです。話をもとに戻して、crueltyは「残虐行為」という意味。prisonersは「捕虜ほりょ」です。つまり、「捕虜に対して残虐な行為を加える人たちを含めて」という意味になります。

but以下を全部まとめると、「私たちの捕虜に対して残虐な行為を加える人たちを含めて、全ての戦争犯罪者は厳しく裁かれるものとします」と訳せます。

この1文をトータルで訳すと以下のようになります。

私たちは日本人が人種として奴隷化されたり、あるいは国民として絶滅させることを意図していません。しかしながら、私たちの捕虜に対して残虐な行為を加える人たちを含めて、全ての戦争犯罪者は厳しく裁かれるものとします。

The Japanese Government shall remove all obstacles to the revival and strengthening of democratic tendencies among the Japanese people.

次の文にいきましょう。

removeは「~を取り除く」という意味の動詞、obstacleは「障害」です。2つとも大学入試用の単語帳にも掲載されている単語です。本文ではall obstacles「全ての障害」と言っています。

ではどんな「全ての障害」なのかというと、revivalは「復活」、strengtheningは「~を強化すること」という意味。元々はstrengthenという他動詞です。revivalとstrengtheningがandで繋がっています。さて、では何を「復活」し「強化する」のかと言ったらそれがof以下です。実はこれは名詞構文の形になっています。

democratic tendencies among the Japanese peopleの部分をrevivalとstrengtheningの他動詞みたいに訳すときれいに訳すことができます。つまり「日本国民の間における民主主義的な傾向」を「復活」し「強化する」と言っています。まとめると、以下のような訳になります。

日本政府は、日本国民の間における民主主義的な傾向を復活させ強化させることに対するあらゆる障害を取り除くものとします。

内容的な話を少し加えると、民主主義的な傾向を「復活」させるということは、日本には戦前から民主主義的な傾向があったが弱まっていたと解釈することができます。

この点、国立国会図書館のウェブサイトには、

ポツダム宣言は、「平和的傾向を有する責任ある政府の樹立」、「民主主義的傾向の復活強化」、「基本的人権の尊重の確立」などを要求しており、これらを受け入れることは、必然的に明治憲法の根本的な改革に道を開くこととなっていく。

日本国憲法の誕生 第1章 戦争の終結と憲法改正 https://www.ndl.go.jp/constitution/gaisetsu/01gaisetsu.html (令和年6年7月17日閲覧)

と述べられていますが、明治憲法(大日本帝国憲法)下において「民主主義的傾向」が存在している(例えば日本には予算案を否決できる衆議院があったはずである)のであれば、「明治憲法の根本的な改革というのはやや表現が行き過ぎているのではないかと思われます。

Freedom of speech, of religion, and of thought, as well as respect for the fundamental human rights shall be established.

最後の文についての解釈をしていきましょう。

Freedom of speech, of religion, and of thought, as well as respect for the fundamental human rightsまでが主語です。Freedom of speech, of religion, and of thoughtの部分が「言論、宗教及び思想の自由」と訳せます。as well asは「〜と同様に、〜だけでなく」と訳します。respectは「〜を尊重する」と訳しておきましょう。for以下に尊重の対象が来ます。fundamental human rightsというのは「基本的人権」と訳します。shallは強い未来を表すので「〜するものとする」、be establishedで「確立される」と訳しておきましょう。

まとめると、訳は以下の通りになります。

基本的人権を尊重するだけでなく、言論、宗教及び思想の自由が確立されるものとします。

主語が長いだけで構文自体は難しくありません。内容は文明国であれば当たり前のことが書いてあるに過ぎません。しかしながら、占領政策時にGHQがやったことは占領政策に反する内容が含まれていないのかの「検閲」が行われていました。本来、占領政策は双方が守るべきものであるはずですが、やはりこの点1つをとっても勝者という優越的な立場を利用した政策を占領下の日本では行われていたのだと言わざるを得ないでしょう。

まとめ – ポツダム宣言第10項試訳

では最後にまとめをしてみましょう。

私たちは日本人が人種として奴隷化されたり、あるいは国民として絶滅させることを意図していません。しかしながら、捕虜に対して残虐な行為を加える人たちを含めて、全ての戦争犯罪者は厳しく裁かれるものとします。日本政府は、日本国民の間における民主主義的な傾向を復活させ強化させることに対するあらゆる障害を取り除くものとします。基本的人権を尊重するだけでなく、言論、宗教及び思想の自由が確立されるものとします。

続いて、ポツダム宣言の第11項の訳読をしましょう。

KÁSHIRO Masahiro

日本まほろば社会科研究室客員研究員
日本スペイン法研究会会員
ブロガー、インスタグラマー、音楽家、授業をしない大手学習塾の校舎長
 
共著(日本スペイン法研究会の一員として)で、「現代スペイン法入門」(嵯峨野書院)と「Introducción al Derecho Japonés actual」(Editorial Thomson Reuters – Aranzadi)の一部を執筆。他にも、日本まほろば社会科研究室サイト内で、小学校や中学校や高校での社会科教育で役立つ多くのコンテンツを執筆(コンテンツはリンク先を参照)。
 
X JAPANやThe Last Rockstarsのリーダーとして活躍されているYOSHIKIさんのファンでもある。

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