「ポツダム宣言」の第11項を訳してみました

ポツダム宣言現代語訳をしてみました 「ポツダム宣言」全文試訳
ポツダム宣言現代語訳をしてみました
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執筆 & 訳: 加代 昌広かしろ まさひろ(KÁSHIRO Masahiro)

ポツダム宣言の全文の内容を和訳してみるシリーズです。

今回はポツダム宣言の第11項を和訳してみます。構成は、英文、公式邦訳、試訳とその解説の順になっています。

なお、ポツダム宣言が作成された背景については、「ポツダム宣言の全文をわかりやすく解説してみました」というコンテンツでくわしく解説しましたので、そちらをご覧下さい。

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英文

(11) Japan shall be permitted to maintain such industries as will sustain her economy and permit the exaction of just reparations in kind, but not those which would enable her to re-arm for war. To this end, access to, as distinguished from control of, raw materials shall be permitted. Eventual Japanese participation in world trade relations shall be permitted.

公式邦訳

十一、日本国ハ其ノ経済ヲ支持シ且公正ナル実物賠償ノ取立ヲ可能ナラシムルカ如キ産業ヲ維持スルコトヲ許サルヘシ但シ日本国ヲシテ戦争ノ為再軍備ヲ為スコトヲ得シムルカ如キ産業ハ此ノ限ニ在ラス
右目的ノ為原料ノ入手(其ノ支配トハ之ヲ区別ス)ヲ許可サルヘシ
日本国ハ将来世界貿易関係ヘノ参加ヲ許サルヘシ

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解説

1つの条文の中に3つの文があるので、1文ずつわけて解説をしたいと思います。

1文目: Japan shall be permitted to maintain such industries as will sustain her economy and permit the exaction of just reparations in kind, but not those which would enable her to re-arm for war.

“Japan shall be permitted to maintain such industries as will sustain her economy and permit the exaction of just reparations in kind”について

Japan shall be permittedは、「日本は許されるものとする」と書いてあります。法律文書や条約文書などにおいて「shall」が使用される場合、「強い意志」というところから、通常「義務」や「強制」を表します。具体的には、法律や条約の文脈で「shall」は「〜しなければならない」や「〜するものとする」といった意味合いを持ちます。

to maintain such industriesで「そのような産業を維持する」という意味ですが、どんな産業なのかが具体的ではありません。その具体的な内容がas以下に書かれています。suchを見て後ろに何かしらの説明が来るかもなぁという連想が大切です。

as以下には2つの「産業」について書かれています。andで結ばれています。

1つ目の「産業」が、sustain her economyです。これはそんなに難しい文ではありません。「日本の経済を維持する」産業と訳せます。ちなみに、herは日本という国名を受ける代名詞です。

もう1つの「産業」が、permit the exaction of just reparations in kindです。つまりpermitは「許す」という意味ですね。これは大学受験の単語帳の基礎レベルです。では何を許すのかがその後ろです。exactionは「取り立て」という名詞で少し難しい単語です。justはここでは「公正な」という形容詞の意味で使われています。justという単語は副詞のイメージが一般的かと思いますが、形容詞も副詞もどちらも用いられます。両者ともラテン語の「justus」(正しい、公正な)に由来し、形容詞は法律文書や宗教文書で「just」が頻繁に使用されて「公正さ」や「正義」を表す語として定着した一方で、副詞は「時間的な正確さ」や「強調」の意味などで使われるようになったという歴史があります。次のreparationsは「賠償」と訳します。 これも少し難しい単語です。in kindは「現物で、物品による」という意味を持ちます。「in kind」が「現物で」という意味になるのは、その言葉が「同じ種類のもの」を指していたことから派生して、現金ではなく「物品」や「サービスでの支払い」を指すようになったためです。したがって、ここは「現物賠償」とか「役務賠償」などと訳します。敗戦後の賠償は、現金で払うのではなくて設備や労務(働く)ことで賠償したりすることが多いものです。現金なんてありませんからね。「公正な現物賠償を取り立てることを認める」産業となります。

ここで訳をまとめると、「日本は日本経済を維持したり公正な現物賠償を取り立てることを可能とするような産業を維持することは認められます」と訳せます。

“but not those which would enable her to re-arm for war.”について

次にbut以下です。butを見たら何と何を繋いているのかを見ていく必要があります。butは等位接続詞ですからね。じっくり考えていきます。not thoseとあります。thoseはthe industriesを指します。ここはwhich以下に書かれている産業を認めないと言いたいのでしょう。つまり、Japan shall not be permitted to maintainを補って訳すと綺麗に意味が取れると思います。「日本はwhich以下の産業を維持することを認めないものとする」と訳せます。

which以下を見ていきます。wouldが使われています。仮定法のニュアンスを持っています。ここには「〜だったらね」というニュアンスが含まれます。で、その上で後ろを見ます。enableという動詞を見たら、後ろには目的語 to+動詞の原型[不定詞]を連想します。enable O to V(動詞の原型)で、「主語によってOがVすることを可能にする」と訳します。herは「日本」を意味します。先ほども出てきましたが、国の名前はherで受けます。to re-arm for warで「戦争のために再武装をすること」です。which以下をまとめると、「日本が戦争のために再武装をすることを可能にする」という意味になります。「再武装することを可能にするってことはないとは思いますが…」というニュアンスが入っていることをwouldがあることで明らかになっています。

ここでbut以下を全部まとめると、「日本は戦争のために再軍備をすることを可能にする産業を維持することを認めないものとする」と訳せます。

ここで、butの前の訳と後の訳をくっつけると以下のような訳になります。

日本は日本経済を維持したり公正な現物賠償を取り立てることを可能とするような産業を維持することは認められますが、戦争のために再武装をすることを可能にする産業を維持することは認めないものとします。

1文が長いので解説も長くなってしまいました。

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2文目: To this end, access to, as distinguished from control of, raw materials shall be permitted.

続いて次の文の訳読をしましょう。

endはここでは「目的」と訳す方が自然です。To this endは「この目的のために」と訳しておきます。this endは具体的に何を指しているのかというと、「戦争のために再武装できないようにする」ことです。

この後の解釈が少し難しいです。access to…とあってその後にas distinguished from control ofがあります。この部分は挿入句になるので、文のスケルトンを把握する場合には一度飛ばしておきます。なお、この部分は大事なフレーズなので後でしっかりと見ます。

ではaccess toはどこへ繋がるのかというと、raw materialsです。つまり、この文のスケルトンを把握すると、

access to raw materials shall be permitted.

となります。raw materialsは「原材料」と訳します。access to raw materialsで「原材料へのアクセス」→「原材料を入手することは」と訳しておくのがよいでしょう。shall be permittedで「認められるものとする」と訳します。何度も出てくる助動詞のshallです。法律や条約の文脈で「shall」は「〜しなければならない」や「〜するものとする」といった意味合いを持ちます。

文のスケルトンだけを訳すと、「この目的のために、原材料を入手することは認められるものとする。」となります。

では飛ばした挿入句を訳します。as distinguished fromはイディオムとして把握しておいても問題ありません。「…とは異なり」や「…と区別されて」という意味を持ちます。では何と「区別されるのか」というと、control ofとあります。何か中途半端な形で挿入句が終わってしまっています。それでなぜOKなのかというと、後ろに「raw materials」という言葉が暗黙的に存在するためです。文全体の中で「control of」の対象が「raw materials」であることが文脈から明確なので、省略されています。このような省略は、重複を避け、文を簡潔にするためによく使われます。ここでは「原材料を統制することとは区別して」と訳しておくのがよいだろうと思います。

ではこの1文をまとめます。

この目的のために、原材料を統制することとは区別して、原材料を入手することは認められるものとします。

3文目: Eventual Japanese participation in world trade relations shall be permitted.

では最後の文を訳していきましょう。

eventualは形容詞で「最終的な」や「いずれの」という意味です。participationは名詞で「参加」を意味します。in world trade relationsで「世界貿易関係」と訳せます。この修飾句はparticipationに係っています。したがって、この文の主部の訳は「最終的な日本の世界貿易関係への参加は」という意味になります。

述部は「認められるものとします」と訳しておけばよいでしょう。

eventualを副詞的に訳して、「参加が許可される」という動作全体にかけていくと自然な日本語になるので、訳は以下の通りとしたいと思います。

将来的に日本の世界貿易関係への参加は認められるものとします。

まとめ – 「ポツダム宣言」第11項試訳

それでは第11項をまとめて訳を書いてみましょう。

日本は日本経済を維持したり公正な現物賠償を取り立てることを可能とするような産業を維持することは認められますが、戦争のために再武装することを可能にする産業を維持することは認めないものとします。この目的のために、原材料を統制することとは区別して、原材料を入手することは認められるものとします。将来的に日本の世界貿易関係への参加は認められるものとします。

なかなか難しい文章でした。

続いて第12項を訳してみたいと思います。

ポツダム宣言第12項を訳してみました。

 

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