今回は、日本国憲法第31条の条文穴埋め問題を解きながら、「適正手続きの保障」についてわかりやすく解説していきます。「適正手続き」は「デュー・プロセス」とも呼ばれます。
日本国憲法条文穴埋め問題解説シリーズは、試験でよく出そうな日本国憲法の条文を解説するシリーズです。
まずは問いに答えて、それから解説を読みます。さらに、発展的な内容については<発展>という項目で解説を試みます。社会科が苦手だなと思う人は<解説>まで。得意だという人は<発展>まで読んでみてください。
復習は、条文を音読し、間違えた場合は正解を覚えましょう。空欄のまま条文が読めるようになれば合格です。
日本国憲法第31条(穴埋め問題)
第三十一条
何人も、( )によらなければ、その( )若しくは( )を奪はれ、又はその他の( )を科せられない。
日本国憲法第31条(解答)
第三十一条
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
日本国憲法第31条(解説)
今回は、「適正手続(デュー・プロセス)の保障」についての解説をします。これも基本的人権についての規定なのです。
まずは全体像の確認からやっていきましょう。
適正手続の保障の条文は、身体の自由(身体的自由権)の一種です。
ここでは、
「犯罪を犯した場合に、法的にどのような手続きがとられるのか?」
を考えるとこの条文は分かりやすいです。
犯罪を犯したとしても、人権は保障されなければなりません。何かの犯罪を犯したという事実は人や社会や国の利益を侵害したわけなので、そういう人を乱暴に扱ってもよいと思うかもしれません。
ところが、いつだれがどのような犯罪を犯すかは分かりません。皆さんだって自転車に乗っていて小さな子どもをひいて殺してしまったりすることもあるかもしれませんよ。犯罪は実は自分も犯すかもしれないと考えながら勉強していくと、納得感が出てきます。
話を元に戻すと、仮にみなさんが人を殺してしまったとしたら、どうなるのか?捕まるの?捕まったとしたらどんなふうに罰せられるの?など不安に思いますよね。
また、どんな行為が犯罪になるのか?があらかじめ分かっていなかったら、皆さんきっと外を歩けないですよ。
- 浮気や不倫は犯罪になるの?
- 道路に落書きしたら犯罪になるの?
- NHKの受信料を支払わなかったら犯罪になるの?
- コンビニで万引きしたら死刑になるの?厳重注意だけで済むの?
- 不注意で他人の物を壊しても犯罪になるの?
- 不注意で人を殺したら犯罪になるの?
明らかに犯罪になりそうなものからビミョーそうなものまでいろいろと並べてみましたが、犯罪行為をやっていないのに道を歩いていていきなり警察官に連れて行かれたら、こっちはたまったものではありません。
これは犯罪!これは犯罪じゃない!
ある行為が犯罪だったとして、これぐらいの重さで罰せられる!
ということは前もって分かっていた方が我々は行動しやすくなります。
ようやく本論に入りますが、日本国憲法第31条の本文には「法律の定める手続」と書いてあります。どのような行為が犯罪になるのか?どれぐらいの刑罰を受けるのか?を法律で定めなければならないということもその意味に含まれていると言われています。これを罪刑法定主義(ざいけいほうていしゅぎ)と言います。罪と刑罰はあらかじめ法律によって定めなければならないという考え方です。しかし刑罰の内容がひどいものであれば、不当に人身の自由を侵害されていると言わざるを得ません。そこで、日本国憲法第31条の「法律の定める手続」には適正な刑罰の内容であることも求められます。
さらに、犯罪と刑罰の内容を法律で決めなければならないと言っても、仮に犯罪を犯した人がどのような手続きで刑事裁判にかけられるのかが明らかでなければなりませんし、明らかになったところでそれが適正なものでなければ、やはり国民の人身の自由は侵害されてしまいます。
そういうわけで、日本国憲法第31条の「法律の定める手続」という言葉には3つの意味が含まれていると言われています。
- 実体もまた法律で定められなければならないこと(罪刑法定主義(ざいけいほうていしゅぎ))
- 法律で定められた実体規定も適正でなければならないこと
- 手続が適正でなければならないこと
「生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科される」には、適正な手続きが必要だということが分かってもらえれば今回は合格です。
刑事裁判の仕組みについて(発展)
最後に、ここで刑事裁判のしくみについて同時に復習を行っておくことをおすすめします。
タイトルには発展と書いてしまいましたが、もちろん高校入試においても大学入試においても基礎的な内容です。
刑事手続きは、大きく捜査(そうさ)の場面と公判(こうはん)(裁判)の場面の2つに分けることができます。何らかの犯罪が発生した場合に、その犯人として捜査の対象となった者(罪を犯した疑いのある者)のことを被疑者(ひぎしゃ)と呼びます。そして、捜査(そうさ)の場面から公判(裁判)の場面へのかけ橋になるのが、起訴(きそ)と呼ばれる手続です。被疑者が起訴されると、被疑者は被告人(ひこくにん)と名前が変わります。
刑事裁判において被疑者や被告人は国家権力によって一時的に自由に行動できなくなってしまうので、身体的自由権を侵害されている状況になります。したがって、より慎重な手続きを保障されなければなりません。
このあたりの考え方が理解できていると、刑事裁判に関する様々な条文の意味内容を簡単に理解できるようになります。