今回は、奴隷的拘束・苦役からの自由について書かれていると言われる日本国憲法第18条について、条文穴埋め問題を解きながら解説をしてみたいと思います。
憲法条文穴埋め問題解説シリーズは、試験でよく出そうな日本国憲法の条文を解説するシリーズです。
まずは問いに答えて、それから解説を読みます。さらに、発展的な内容については<発展>という項目で解説を試みます。社会科が苦手だなと思う人は<解説>まで。得意だという人は<発展>まで読んでみてください。
復習は、条文を音読し、間違えた場合は正解を覚えましょう。空欄のまま条文が読めるようになれば合格です。
日本国憲法第18条(穴埋め問題)
第十八条
何人(なんぴと)も、いかなる( )も受けない。又、犯罪に因(よ)る処罰(しょばつ)の場合を除(のぞ)いては、その意に反する( )に服させられない。
日本国憲法第18条(解答)
第十八条
何人(なんぴと)も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因(よ)る処罰(しょばつ)の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
日本国憲法第18条(解説)
「奴隷的拘束」及び「意に反する苦役からの自由」の立ち位置
日本国憲法第18条には、「奴隷的拘束(どれいてきこうそく)を受けない自由」と「苦役(くえき)からの自由」の2つの内容が書かれていますが、今回はこれらについて学習していきましょう。
これらの権利は、基本的人権の中の自由権という権利の中にある権利の1つなのですが、図で見た方が分かりやすいので、2枚のスライドをご覧に入れたいと思います。
「奴隷的拘束(どれいてきこうそく)を受けない自由」と「苦役(くえき)からの自由」は、自由権の中に存在します。
「自由権」は、上の3つの権利に細分化されますが、「奴隷的拘束(どれいてきこうそく)を受けない自由」と「苦役(くえき)からの自由」はその中の「身体的自由」の中にあります。なお、「自由権とは何か?」については、後に書いたので見ておいてほしいです。
「奴隷的拘束(どれいてきこうそく)を受けない自由」と「苦役(くえき)からの自由」は、「身体的自由」の中にあります。上の図で言うと、一番上にありますよね。今からする話はココの話なんだということを押さえながら学習を進めましょう。
日本国憲法第18条の条文の言葉の意味
さて、ここからは言葉の意味の説明です。
「奴隷的拘束(どれいてきこうそく)」とは、身体の自由を奪われて人権を奪われることを言います。どのような人であっても、非人間的な状況に置かれることはよろしくないと言っています。
「苦役(くえき)」とは、普通の人から見て、普通以上に苦痛を感じるような任務のことを言います。「意に反する」苦役を受けない権利とは、たとえば徴兵制(ちょうへいせい)なんかがこれにあたると言われています。徴兵制とは、一般の国民が一定期間において兵役(へいえき)の義務を課される制度のことを言いますが、徴兵制は「意に反する苦役」にあたるからという理由で憲法違反だと言われています。
ただし、犯罪による処罰(刑罰 等)の場合については例外的に許されます。テレビや新聞やネットのニュースで、「懲役何年」という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、「懲役(ちょうえき)」とは、簡単に言うと、刑務所の中に入れられて労働をさせられる刑罰なのですが、こういうものは例外的に憲法上でも認められています。
自由権とは?
重要事項として、 「自由権」とは何かについて確認してみましょう。
自由権とは、国から自由になることができる権利です。特に、ヨーロッパにおいて絶対王政の時代から市民革命を経る時に発展した考え方です。
もう少しヨーロッパの歴史を簡単に見ていくと、こんなイメージです。スライドを見てください。
自由権というのは、ザックリ言うと、こんな感じで発展してきた考え方です。
日本国憲法第18条の私人間の直接適用について(発展)
ここからは発展です。
憲法は、基本的に「国家権力や地方公共団体の権力」と「国民」または「国家機関同士」の関係を規律するのが原則です。「権力」とは強いので、人の行動に制限をかけやすいものです。それに歯止めをかけていくのが憲法の大切な考え方の1つなのです。
ところが、日本国憲法第18条の 「奴隷的拘束」及び「意に反する苦役」からの自由については、上の原則と少し違うところがあります。もちろん、国家権力や地方公共団体の権力による 「奴隷的拘束」及び「意に反する苦役」からの自由を保障しているのはもちろんなのですが、企業や(私立)学校による「奴隷的拘束」及び「意に反する苦役」からの自由も保障されていると言われています。例えば、企業と労働者の関係であれば、企業の方が力を持っていますよね。ということは、企業は労働者の基本的人権を侵害しやすくなります(もちろん全部の企業が基本的人権を侵害していると言っているのではないですよ!)。憲法はそのあたりのことも考えて、例外的に国家機関や地方公共団体による「奴隷的拘束」及び「意に反する苦役」だけでなく、企業や学校などの奴隷的拘束や意に反する苦役に対する保障をしていると解釈されています。
上に書いた憲法の原則を破って、「国や地方公共団体と国民」だけではなく、憲法自らが「企業と国民」や「国民同士」の基本的人権の調整を行う規定があります。こういう規定を、「私人間(しじんかん)の直接適用」といい、憲法の中には全部で5つの条文が存在すると言われています。
これらは、中学生の皆さんや共通テストレベルで学習する高校生の皆さんは覚える必要はありませんが、難関大学を志望する皆さんや司法試験・司法書士試験・行政書士試験・公務員試験といった法律系の資格試験を目指す人は絶対に必要となる知識になるので、覚えておくようにしましょう。