今回は、日本国憲法第47条の内容を踏まえて、衆議院及び参議院の選挙制度について、中学生や高校生の皆さんに向けてわかりやすく解説します。
今回は条文穴埋め問題はありません。
日本国憲法第47条(条文)
第四十七条
選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
日本国憲法第47条(解説)
統治機構の条文を見る際の前提
日本国憲法の条文のうち、統治機構の勉強をする場合には全体像を把握しながら学習をしていきましょう。
権力分立の話をする場合、必ず上の図が頭に入っていなければなりません。「権力者」の中の話をしているのだという前提が必要です。
日本型統治のありかた「シラス政治」の解説は別のコンテンツにあるので参照してください。日本の教科書からはほぼ抹殺されていますが、とても大切な考え方です。
その上で、「国会」「内閣」及び「裁判所」の条文や制度を勉強する場合には、必ず「権力分立」の図を頭に置きながら、どこの機関の何の話をしているのかを全体像を見ながら勉強してください。これは「国会」「内閣」及び「裁判所」を勉強するときの地図のようなものだと思ってください。
選挙制度の基礎知識
国会は衆議院と参議院のに二院に分かれていますが、大前提として選挙制度の知識がないと分からなくなるところなので、選挙制度の基礎知識をインプットした後に、各議院の選挙制度についてお話ししていきます。
小選挙区制と大選挙区制
小選挙区制というのは、選挙区の中から1名の議員を選出する選挙制度です。設けられる選挙区が小さいことが多いので、小選挙区制と呼ばれています。
一方で、1つの選挙区の中から2名以上の議員を選出する選挙制度のことを大選挙区制と言います。
以前の日本は中選挙区制がとられていました。これは大選挙区制ほどに選挙区は広くありませんが、2人以上の候補者が当選するという意味で大選挙区制の仲間だと言われています。
試験でよく問われるのは、小選挙区制と大選挙区制のメリットとデメリットです。ホントにそうなのか?という部分もありますが、メリットとデメリットは表裏一体なので、「片方の選挙制度をしっかりと覚えてあとはその反対」という覚え方でかまいません。
小選挙区制 | 大選挙区制 | |
定義 | 選挙区の中から1名の議員を選出する選挙制度 | 1つの選挙区の中から2名以上の議員を選出する選挙制度 |
メリット | 政局が安定しやすい 選挙にお金がかからない | 死票が少ないので、少数の意見が反映されやすい |
デメリット | 死票が増えて、 少数の意見が反映されにくい | 政局が安定しにくい 選挙区にお金がかかりやすい |
ポイントは小選挙区のデメリットである「死票(「しにひょう」とも言います)が出やすい」という部分と「選挙にお金がかかりやすいかどうか」を押さえるのがここの急所です。
死票というのは、当選した候補者以外に入れられた票のことです。
例えば、A選挙区で甲野一郎さん、乙野二郎さん、丙野三郎さんが立候補して、甲野一郎さんが当選したとしましょう。それぞれの得票数が、
- 甲野一郎さんが1000票
- 乙野二郎さんが900票
- 丙野三郎さんが800票
だとします。
小選挙区制の場合、死票は1700票ということです。
これがもし大選挙区制で2人が当選するとなると、落選するのは丙野三郎さんだけになるので、死票は800票となります。
小選挙区制の方が大選挙区制に比べると死票が多いですね。
これが「死票が出やすい」の意味です。
お金に関しては、「小選挙区は選挙区がせまい→回るところも少ないのでカネがかからない」を覚えておけばOKです。大選挙区制はその反対ですから。
比例代表制
比例代表制というのは、各党派の得票数に応じて議席を配分する選挙制度のことです。
比例代表は次のように候補者を決めていきます。
- 各政党で候補者を決め、立候補者名簿を作成する(この時、名簿の中で事前に順位をつけて順位の高い順番に当選者を確定する方法と事前に順位をつけない方法で当選者を確定する方法がある)。
- 有権者が投票する。
- 各政党の得票数に応じて議席数を確定する。
- 当選者が確定する。
中学生レベルであれば、まずは3.の計算方法について試験に出てきます。具体例を見た方が分かりやすいので、下の表を見てください。
例えば、A党が1000票、B党が600票、C党が200票の票数を獲得し、この比例代表選挙区からは5名の候補者が当選することになっているとしましょう。
上の表ように、得票数について1から順番に割っていって「商(割り算の答え)」を出していきます。2で割った場合、3で割った場合…というように順番に「商」を出していきます。
次に「商」の数を大きい順番に並び替えます。
この選挙区の場合は5人が当選する選挙区なので、「商」を上から数えて数字の大きい5つを特定します。上の例でいうと、A党は3議席、B党は2議席、C党は残念ながら議席がないという結果になりました。
比例代表はこのように決めていきます。
比例代表制度のメリットは、少数派の意見が反映されやすい特徴を持っています。その分、小政党が国会の中で多くなるところから、政局が不安定になりやすい特徴を持っています。
衆議院議員総選挙の制度
まず公職選挙法第4条第1項の条文を見てみましょう。
第四条
公職選挙法第4条第1項
第1項 衆議院議員の定数は、四百六十五人とし、そのうち、二百八十九人を小選挙区選出議員、百七十六人を比例代表選出議員とする。
公職選挙法第4条には2つの選挙制度についての記述が存在します。
- 小選挙区
- 比例代表
衆議院議員の選挙はこの2つの選挙制度をミックスさせています。「小選挙区制度」がメインで、「比例代表制度」が小選挙区制度のデメリットを補完しています。つまり、死票で少数派の政党にも配慮できるようにしています。これを小選挙区比例代表並立制と言います。漢字がたくさん並ぶと覚えにくいので、「小選挙区」「比例代表」「並立制」と3つの単語に区切って覚えましょう。
さて、もう少しくわしく見ていきます。
小選挙区制について
小選挙区制は全国を289区に分けて、それぞれの選挙区から1人の候補者が当選します。
比例代表について
比例代表は、全国を11のブロックに分けて、それぞれのブロックから複数人の候補者が当選できる仕組みになっています。
- 各政党で候補者を決め、立候補者名簿を作成する。この時、名簿の中で事前に順位をつける。
- 有権者が政党に投票する。
- 各政党の得票数に応じて議席数を確定する。
- 当選者が確定する。
立候補者名簿を作成する時に、名簿の中で事前に順位をつけて順位の高い順番に当選者を確定する方法を取ります。これを、拘束名簿式比例代表制と呼びます。候補者が事前に順位を付けられて名簿の順位に拘束されるので、こんなふうに言います。有権者は投票用紙に政党名を記入し、投票します。そして、順位の高い順から当選者を確定します。
ただ、衆議院議員総選挙における比例代表制には少し分かりにくい制度があります。2つの点を指摘します。
- 小選挙区と比例代表区とで重複立候補ができる。
- 重複立候補をした候補者に限り、小選挙区で落選しても比例代表区で復活することができる場合がある。
1番目は小選挙区と比例代表区とでダブって立候補ができることを意味します。
2番目は重複立候補をした人の中で小選挙区で落選した候補者が比例代表区で復活できる場合があります。小選挙区制と比例代表制とに重複して立候補している場合、その全員または一部の候補者を同じ順位にすることができます。例えば、名簿の中に同じ2位の候補者が何人もいるといったことが起こり得るということです。そして、同順位の候補者の中では、惜敗率の大きい順番で復活当選を果たすことができます。惜敗率というのは、小選挙区における最多得票者に対する得票の割合のことを言います。
たとえば、甲野一郎さんが100票が当選して、乙野次郎さんが90票をとったけれども落選してしまった場合です。惜敗率は次のように求めます。
90(乙野次郎さんの得票数)÷100(甲野一郎さんの得票数:最多得票者)×100 = 90.0%
重複立候補者すべてについてこれを算出し、これの多い順番から当選者が決まります。
先ほど小選挙区制には死票が多いと言いましたが、こういった惜敗率を求めることで死票を押さえる役割を果たしているのです。
参議院議員通常選挙の制度
まずは、公職選挙法第4条第2項を見てみましょう。
第四条
公職選挙法第4条第2項
第2項 参議院議員の定数は二百四十八人とし、そのうち、百人を比例代表選出議員、百四十八人を選挙区選出議員とする。
条文から読み取ると、「比例代表で選出される議員」と「選挙区から選出される議員」の2種類の議員がいるということが分かります。先に、選挙区から選出される議員、次に比例代表で選出される議員について解説します。
なお、定数については、令和4年(西暦2022年)7月26日以降は248人(選挙区148人、比例代表100人)です。
選挙区から選出される議員について
まずは選挙区については、「大選挙区制」を採用しています。選挙区の中には1名というところもありますが、2名以上の候補者を当選させる選挙区もあります。だいたい都道府県ごとに選挙区が設定されていますが、一票の格差の問題で一票の格差を解消するために、2つの都道府県にまたがって1人選出されるという選挙区も存在します。選挙区から当選する議員は全部で148名いらっしゃいますが、参議院議員は3年ごとに半数が改選されます。
比例代表について
次に比例代表選挙についてなのですが、衆議院と同様こちらも負けずと複雑です。
- 各政党で候補者を決め、立候補者名簿を作成する。事前に順位はつけない。
- 有権者が政党または候補者名簿に書かれている個人に投票する。
- 個人名が書かれた票は、その者が所属する政党の得票となる。そして、政党の総得票数(個人+政党に投票した分の総数)に基づいてドント方式により、 各政党の当選人の数が決まる。
- 個人票の得票数に応じて順位付けされ、当選者が決定する。
参議院議員選挙で敷かれている比例代表制は、立候補者名簿を作成する時に、名簿の中で事前に順位をつけないのが特徴的です。そして、各政党の中の名簿の順位は個人の得票数で決まります。これを、非拘束名簿式比例代表制と呼びます。政党同士が議席を争うと同時に、各党内でも候補者が競争することで、民意をより反映させていこうという仕組みだということです。
一応これが原則なのですが、一定の要件を満たした政党には「特定枠」と呼ばれるあらかじめ政党の決めた順位に従って当選者が決まる仕組みが導入されました。令和元年(西暦2019年)の参議院議員選挙から行われています。
一応、非拘束名簿式比例代表制の原則は維持しつつ、ある候補を優先的に当選させたい場合(上の例では甲野太郎候補)に、「特定枠」を使うことができるという複雑な制度になりました(つまり、一部で拘束名簿式比例代表制)。総務省はこの制度が導入された背景として、「政党がその役割を果たす上で必要な人材が当選しやすくなる」と説明しています。しかし、現実的には一票の格差を解消するためにいわゆる「合区」(2つの都道府県から1人しか当選しない選挙区)が設けられることになったため、これまで立候補できた候補者が選挙に出られなくなる事態が起こります。例えば、これまではA選挙区からはA候補者、B選挙区からはB候補者が当選できたのに、「合区」してしまったためにB候補者が出られなくなります。そのB候補者を救済するための制度として作られたのではないかという見方がなされています。
参議院議員選挙の選挙制度はとても複雑ですね。
憲法第47条に関する一問一答
問題編
憲法47条には「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」 とありますが、これに関連して次の問いに答えなさい。
- 1つの選挙区の中から1人の代表者を選ぶ選挙制度の名称を答えなさい。
- 1つの選挙区の中から2人以上の代表者を選ぶ選挙制度の名称を答えなさい。
- 各政党の得票数に応じて議席を配分する選挙制度の名称を答えなさい。
- 衆議院議員の定数を答えなさい。
- 衆議院議員総選挙で採用されている選挙制度の名前を答えなさい。
- 参議院議員の定数を答えなさい。
解答編
- 小選挙区制
- 大選挙区制
- 比例代表制
- 465名
- 小選挙区比例代表並立制
- 248名