今回は、中間試験や期末試験などの定期テストだけでなく高校入試や大学入試、はたまた司法試験や司法書士試験、行政書士試験、公務員試験などの資格試験でもとてもよく出題される、日本国憲法第25条の条文及びその内容について、穴埋め問題を解きながらわかりやすく解説をしていきます。
特に日本国憲法第25条第1項は丸暗記しておいてもよいぐらいの条文です。
日本国憲法条文穴埋め解説シリーズは、試験でよく出そうな日本国憲法の条文を解説するシリーズです。
まずは問いに答えて、それから解説を読みます。さらに、発展的な内容については<発展>という項目で解説を試みます。社会科が苦手だなと思う人は<解説>まで。得意だという人は<発展>まで読んでみてください。
復習は、条文を音読し、間違えた場合は正解を覚えましょう。空欄のまま条文が読めるようになれば合格です。
日本国憲法第25条(穴埋め問題)
第二十五条
第1項 ( )は、( )で( )な( )を営む権利を有する。
第2項 国は、すべての生活部面について、( )、( )及び( )の向上及び増進に努めなければならない。
日本国憲法第25条(解答)
第二十五条
第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
日本国憲法第25条(解説)
日本国憲法第25条1項は、冒頭に示したとおりで大切な条文です。この条文はよく出ますから、日本国憲法第25条第1項は丸暗記してください。
生存権を体系図から確認する
この条文は社会権の中の生存権について書かれた条文です。まずは体系図から確認してみましょう。
生存権は、「基本的人権」の中にある「社会権」の中にある権利の1つです。
生存権とは?
「生存権」とは、人間が人間らしく生きるのに必要な諸条件の確保を要求する権利です。だれに要求するのかと言うと、国家権力に対してです。
自由権と社会権を比較する
自由権と比較すると、自由権は国民が国に対して介入するなということを言う権利でした。
これに対して、社会権は国の力によって国民の力を引きあげる権利です。
社会権の生まれた背景
憲法の歴史をひも解くと、最初は社会権という権利はありませんでした。
では社会権がなぜ憲法にもりこまれるようになったのでしょうか。
それは、社会権がなかった時代に「貧富の差」が拡大したからです。
基本的人権が生まれた西洋では、市民が王様から権力を奪いとることで今の国家の形の基礎が誕生しました。国家権力から「あーだこーだ」言われないことがよいという価値観のもとで自由権という権利が生まれました。
自由権が使えるようになると、経済はますます発展します。お金が市場の中で回り出すと経済が活性化して景気がよくなるからです。この点についてくわしくは歴史で習いますが、やがて産業革命が起こると、工場の経営者は労働者を雇うようになります。
みなさんがもし経営者だったとして、たくさんの人出を確保するために労働者を雇おうしたとします。高い賃金で労働者を雇いますか?安い賃金で労働者を雇おうとしますか?
こういう質問をすると、おそらくほとんどの人は安い賃金で労働者を雇いますと返してきます。労働者を雇えば財布からお金が出て行ってしまいます。儲けが減ります。経営者の気持ちは分かりますよね。
では立場を逆転して、今度はみなさんが安い賃金で雇われた側に立ってみましょう。安い賃金で長時間工場で働くんです。するとみなさんは安いお給料で生活をしていかなければならなくなります。これは辛いですよね。
今度は社会全体を鳥の目の視点で考えた場合、手元にお金が残る経営者のような立場の人と生活するのにとっても辛くてあんまりお金が貯まらない人が二極化していく現象を見ることができませんか?
また、お金の貯まる経営者なんて話をしましたが、会社経営は簡単ではありません。倒産の危機と常に隣り合わせです。仕事がなくなったりして、その後でうまく仕事が見つかればよいのですが、仕事が見つからなくて働けなくなったり、そもそも心身に障害を抱えて満足に仕事のできない人だっているでしょう。
格差が起こるのは仕方がないことです。格差が許せる範囲内であれば問題ないのですが、あまりにこれが酷くなると、こういった社会的弱者の基本的人権が侵害された状態になるわけです。
そこで生まれたのが社会権という権利です。
世界で最初に憲法の中に社会権の規定を取り入れたのは、実は西暦1917年のメキシコ憲法です。労働者に関する権利の規定を入れたからです。メキシコ憲法第123条の条文を抜粋するとトンデモナイ分量になるので、内容を端的に記した衆議院の憲法調査議員団の報告書の文章から引用してみます。
労働基本権及び社会保障政策を謳った123条は、8時間労働、夜間労働の最長7時間、週休、女性の産休と母体保護、最低賃金制、同一労働男女同一賃金、超過労働の賃金保障、労働保障、団結権、団結行動権、労使紛争の調停仲裁委員会の設置等を詳細に規定している。
「衆議院 米国、カナダ及びメキシコ憲法調査議員団報告書」(平成16年2月)より引用
実は社会権の条文が憲法上最初に現れたのはメキシコ憲法です。
その後、生存権を憲法典の中に取り入れたのが、西暦1919年にドイツで制定されたワイマール憲法です。
経済活動の秩序は、すべての人に、人たるに値する生存を保障することを目指す正義の諸原則に適合するものでなければならない。各人の経済的自由は、この限度内において確保するものとする。
ワイマール憲法第151条
ですから、世界で最初に憲法に社会権を規定したのがワイマール憲法だというのは誤りです。学校の先生が作ったプリントとかでよく間違ってこのように書かれたものを見ることが多いのですが間違い!
世界で最初に憲法に社会権を規定したのはメキシコ憲法です!
メキシコ憲法を勉強している大学の先生は残念ながら多くはいらっしゃいませんので、大学の研究者でも知らない人もいらっしゃいます。
オチなんですが、メキシコ憲法って試験には出ません!教科書にも載っていないからです(笑)。
ワイマール憲法が世界で最初に設けたのは生存権についての規定です!
それはともかく、社会権のいずれの内容も国が国民に対して手を差し伸べる権利です。くわしくはそれぞれの条文のところで勉強することにしますが、社会権はそういう背景があって生まれた権利なのだということを知っておきましょう。
日本国憲法第25条には何が書かれているか?
この規定は国の努力目標なんです。
健康的?
文化的?
最低限度の生活?
具体的ではありません。でも日本国憲法が我が国において施行(しこう)されたのは昭和22年(西暦1947年)ですよ。現在とは生活水準が違います。憲法に最低限度の生活水準がどれぐらいの数値なのかなんて書けるわけがないんですね。だから何を以て「最低限度の生活」とするのか?についてはプロフェッショナルの行政官の判断に任せるしかないんですよね。個別で法律を作っていくしかないんです。生活保護とか年金とか健康保険とか「最低限度の生活」を保障する項目はたくさんありますからね。こういった国の社会保障政策の根本にあるのが憲法第25条だと思っておいてください。
日本国憲法第25条1項がもとになって、例えば生活保護法などが誕生しています。最後にこれを紹介しておきましょう。
生活保護法
(この法律の目的)
第一条
この法律は、日本国憲法第二十五条 に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
(無差別平等)
第二条
すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。
(最低生活)
第三条
この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
いろいろと書いていたら長くなってしまいましたが、日本国憲法第25条1項は大変重要な条文なので、内容をきちんと理解した上でよく覚えておきましょう。