日本国憲法条文穴埋め解説 – 憲法第2条 – 皇位継承について

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日本国憲法条文シリーズ
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今回は、「天皇」という地位がどのように受け継がれていくのかということについて、日本国憲法第2条の条文の穴埋め問題を解きながら解説をしていきます。天皇の地位が受け継がれることを、皇位継承こういけいしょうと言います。

「平成」から「令和」への御代みよ代わりは、日本国憲法の下で行われた最初の皇位継承でした。どのように行われたのかを、法的な観点から解説してみました。したがって、この条文穴埋め解説は長くなっています。

憲法条文穴埋め解説シリーズは、条文の穴埋め問題を解きながら、憲法の内容を解説するものです。

まずは問いに答えて、それから解説を読みます。さらに、発展的な内容については<発展>という項目で解説を試みます。社会科が苦手だなと思う人は<解説>まで。得意だという人は<発展>まで読んでみてください。

復習は、条文を音読し、間違えた場合は正解を覚えましょう。空欄のまま条文が読めるようになれば合格です。

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日本国憲法第2条(穴埋め問題)

第二条
皇位は、( )のものであつて、国会の議決した( )の定めるところにより、これを継承する。 

日本国憲法第2条(解答)

第二条
皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。 

日本国憲法第2条(解説)

天皇陛下の地位は、初代天皇の神武天皇じんむてんのうからずっと引き継がれてきたものであって、令和(れいわ)の御世の今上陛下(現在の天皇陛下のことを「きんじょうへいか」と言います)で126代を数えます。くわしい系図は、宮内庁のウェブサイトに載っています。

http://www.kunaicho.go.jp/about/kosei/keizu.html 

皇室典範について(発展)

現在、皇族については皇室典範こうしつてんぱんという名前の法律によって規定されています。 今回の記事は皇位継承こういけいしょうについてのお話なので、皇室典範の皇位継承についての条文をピックアップしてみます。

第一条
 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。

第二条第1項
 皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。
一  皇長子
二  皇長孫
三  その他の皇長子の子孫
四  皇次子及びその子孫
五  その他の皇子孫
六  皇兄弟及びその子孫
七  皇伯叔父及びその子孫

第二条第2項
 前項各号の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを伝える。

第二条第3項
  前二項の場合においては、長系を先にし、同等内では、長を先にする。

第三条
 皇嗣に、精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、皇位継承の順序を変えることができる。

第四条
 天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。

天皇に即位すると、崩御ほうぎょ(天皇がお亡くなりになること)されるまで、その地位に就かれます。したがって、皇室典範上、崩御前に天皇が自ら譲位じょうい(位を譲ること)をすることはできません。これは、天皇の地位を退かせたりあるいは天皇自らが譲位を表明されることで政治的な影響を与えることを防ぐためです。

さて、天皇が崩御された場合、次にどのような方が天皇の地位に就かれるのかが皇室典範第1条と第2条に書かれています。

皇位(天皇の地位)は男系男子しか継承しない!

皇室典範の第1条には、天皇に即位できるのはどのような方なのかということが書かれています。「皇統に属する男系の男子」と書いてあります。「男系」というのは、「父と子」のつながりのことを意味します。「父が天皇」「父の父が天皇」「父の父の父が天皇」というように、父方をさかのぼっていって初代の神武天皇に行き着く者にしか皇位を引き継ぐことはできないという我が国の歴史が存在します。

天皇を遡ると神話の世界に行き着く!
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逆から言えば、現在の皇室典範では、女性だけでなく皇族の女性と一般男性との間の男児を天皇にすることを認めないと言っているのです。

新聞などにおいて男女同権の関係から「女系天皇」を認めるべきだという議論がなされることがあります。ところが、「女系天皇」と「女性天皇」とを混同して議論がされることが多いので注意が必要です。我が国の歴史上、「女性天皇」は8人10代の天皇がいらっしゃいました。ここで一覧を見てみましょう。

ほとんどが飛鳥時代と奈良時代で、江戸時代にはお二方だけいらっしゃいました。女性が皇位に就かれたのはいわゆる「つなぎ役」で、極めて例外的なことだったのです。上に掲げた「女性天皇」は全て「男系」です。つまり、皇位に就かれた女性天皇の父方をさかのぼれば天皇だということです。

一方で、「女系天皇」は歴史上存在しません。「女系」は父方は皇族以外の一般男子で母方が皇族であるという場合です。「女系天皇」などという発想は、神武天皇以来2680年余りの我が国の歴史の伝統をないがしろにしているといってもよいでしょう。なぜ男系でなければいけないか?簡単に言えば、今までの日本の伝統だからです。2680年あまりも大切にきた伝統を現在に生きる私たちが簡単に捨てることなどできるでしょうか?

「女系天皇」を認めることは日本国の伝統の終了を意味するのです。

最後に、参考としてYoutubeチャンネルの「チャンネルくらら」で「女帝」についての対談をしている動画を紹介したいと思います。元代々木ゼミナールで日本史講師を務められた竹内睦泰先生と城西大学の小野義典先生の対談です。

皇位継承の順位

さて、皇室典範2条では皇位継承の順位が書かれています。これを踏まえると、現在(令和2年9月1日現在)の皇位継承順位はどのようになっているのかを見てみましょう。

  1. 秋篠宮文仁(ふみひと)親王(皇室典範第2条第1項第6号)
  2. 悠仁(ひさひと)親王(皇室典範第2条第1項第6号)
  3. 常陸宮正仁親王(皇室典範第2条第1項第7号)

お名前の後には皇位継承の順位の根拠が示してあります。

宮内庁のウェブサイトに掲げられている系図と皇室典範第2条とを照らし合わせながら確認してみてください。

平成の譲位について(発展)

皇室典範には上のような内容のことが書かれているにもかかわらず、天皇自らが譲位のご意向をお示しになって実際に譲位が行われました。これはつい最近のことです。

平成28年(西暦2016年)8月8日に、当時の天皇陛下(現在の上皇陛下)は次のようなおことばを発せられました。宮内庁のウェブサイトから抜粋します。

 戦後70年という大きな節目を過ぎ,2年後には,平成30年を迎えます。

私も80を越え,体力の面などから様々な制約を覚えることもあり,ここ数年,天皇としての自らの歩みを振り返るとともに,この先の自分の在り方や務めにつき,思いを致すようになりました。

本日は,社会の高齢化が進む中,天皇もまた高齢となった場合,どのような在り方が望ましいか,天皇という立場上,現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら,私が個人として,これまでに考えて来たことを話したいと思います。

即位以来,私は国事行為を行うと共に,日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を,日々模索しつつ過ごして来ました。伝統の継承者として,これを守り続ける責任に深く思いを致し,更に日々新たになる日本と世界の中にあって,日本の皇室が,いかに伝統を現代に生かし,いきいきとして社会に内在し,人々の期待に応えていくかを考えつつ,今日に至っています。

そのような中,何年か前のことになりますが,2度の外科手術を受け,加えて高齢による体力の低下を覚えるようになった頃から,これから先,従来のように重い務めを果たすことが困難になった場合,どのように身を処していくことが,国にとり,国民にとり,また,私のあとを歩む皇族にとり良いことであるかにつき,考えるようになりました。既に80を越え,幸いに健康であるとは申せ,次第に進む身体の衰えを考慮する時,これまでのように,全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが,難しくなるのではないかと案じています。

私が天皇の位についてから,ほぼ28年,この間私は,我が国における多くの喜びの時,また悲しみの時を,人々と共に過ごして来ました。私はこれまで天皇の務めとして,何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ましたが,同時に事にあたっては,時として人々の傍らに立ち,その声に耳を傾け,思いに寄り添うことも大切なことと考えて来ました。天皇が象徴であると共に,国民統合の象徴としての役割を果たすためには,天皇が国民に,天皇という象徴の立場への理解を求めると共に,天皇もまた,自らのありように深く心し,国民に対する理解を深め,常に国民と共にある自覚を自らの内に育てる必要を感じて来ました。こうした意味において,日本の各地,とりわけ遠隔の地や島々への旅も,私は天皇の象徴的行為として,大切なものと感じて来ました。皇太子の時代も含め,これまで私が皇后と共に行って来たほぼ全国に及ぶ旅は,国内のどこにおいても,その地域を愛し,その共同体を地道に支える市井(しせい)の人々のあることを私に認識させ,私がこの認識をもって,天皇として大切な,国民を思い,国民のために祈るという務めを,人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは,幸せなことでした。

天皇の高齢化に伴う対処の仕方が,国事行為や,その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには,無理があろうと思われます。また,天皇が未成年であったり,重病などによりその機能を果たし得なくなった場合には,天皇の行為を代行する摂政を置くことも考えられます。しかし,この場合も,天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま,生涯の終わりに至るまで天皇であり続けることに変わりはありません。天皇が健康を損ない,深刻な状態に立ち至った場合,これまでにも見られたように,社会が停滞し,国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます。更にこれまでの皇室のしきたりとして,天皇の終焉に当たっては,重い殯(もがり)の行事が連日ほぼ2ヶ月にわたって続き,その後喪儀(そうぎ)に関連する行事が,1年間続きます。その様々な行事と,新時代に関わる諸行事が同時に進行することから,行事に関わる人々,とりわけ残される家族は,非常に厳しい状況下に置かれざるを得ません。こうした事態を避けることは出来ないものだろうかとの思いが,胸に去来することもあります。

始めにも述べましたように,憲法の下もと,天皇は国政に関する権能を有しません。そうした中で,このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ,これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり,相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう,そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく,安定的に続いていくことをひとえに念じ,ここに私の気持ちをお話しいたしました。

国民の理解を得られることを,切に願っています。

「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」宮内庁ウェブサイトより

皇室典範第4条には、崩御されるまでは天皇の地位は退くことができない旨が書かれています。しかし、平成の御代みよの天皇(現在の上皇じょうこう陛下)は皇太子殿下(現在の天皇陛下)への譲位を実現しました。皇室典範特例法という法律を作って皇室典範第4条の問題を解決しました。

皇室典範特例法第1条と第2条を見ます。

<皇室典範特別法第1条>(趣旨)

この法律は、天皇陛下が、昭和六十四年一月七日の御即位以来二十八年を超える長期にわたり、国事行為のほか、全国各地への御訪問、被災地のお見舞いをはじめとする象徴としての公的な御活動に精励してこられた中、八十三歳と御高齢になられ、今後これらの御活動を天皇として自ら続けられることが困難となることを深く案じておられること、これに対し、国民は、御高齢に至るまでこれらの御活動に精励されている天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感していること、さらに、皇嗣である皇太子殿下は、五十七歳となられ、これまで国事行為の臨時代行等の御公務に長期にわたり精勤されておられることという現下の状況に鑑み、皇室典範(昭和二十二年法律第三号)第四条の規定の特例として、天皇陛下の退位及び皇嗣の即位を実現するとともに、天皇陛下の退位後の地位その他の退位に伴い必要となる事項を定めるものとする。

<皇室典範特例法第2条>(天皇の退位及び皇嗣の即位)

天皇は、この法律の施行の日限り、退位し、皇嗣が、直ちに即位する。

では、いつ譲位がなされるのかというと、こちらは皇室典範特例法の附則第1条に規定があります。

<皇室典範特例法附則第1条>(施行期日)
この法律は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第一条並びに次項、次条、附則第八条及び附則第九条の規定は公布の日から、附則第十条及び第十一条の規定はこの法律の施行の日の翌日から施行する。

このように皇室典範特例法で今回のご譲位の問題には手を打ったわけですが、そもそも日本国憲法第2条において「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」とあるのに、なぜ特例法で手を打つことができたのでしょうか。特例法は特例法であって皇室典範ではないので、憲法第2条に違反するのではないかと疑問を持つ識者もいます。この点については、立法的にも解決済みでかつ実質的にも問題ないという主張が一般的です。まず立法的には皇室典範の附則に次のような文言を付けることで解決しています。

<皇室典範特例法附則第3条>

(皇室典範の一部改正)
皇室典範の一部を次のように改正する。
附則に次の一項を加える。
この法律の特例として天皇の退位について定める天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成二十九年法律第六十三号)は、この法律と一体を成すものである。

皇室典範の附則にこの文言を加えることで特例法と皇室典範をイコールにしてしまう立法措置を取りました。このようにして形式的な解決を図りました。

皇室典範特例法の作られ方まで解説してしまうと、中学校レベルも高校レベルも飛び越えたお話になってしまいます。中学生の皆さんや高校生の皆さんは、皇位は男系によって継承されてきたのだということだけでも覚えておいてもらえると嬉しいです。

 

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