憲法条文シリーズは、試験でよく出そうな日本国憲法の条文を解説するシリーズです。
まずは問いに答えて、それから解説を読みます。さらに、発展的な内容については<発展>という項目で解説を試みます。社会科が苦手だなと思う人は<解説>まで。得意だという人は<発展>まで読んでみてください。
復習は、条文を音読し、間違えた場合は正解を覚えましょう。空欄のまま条文が読めるようになれば合格です。
日本国憲法第69条、第70条及び第71条(穴埋め問題)
日本国憲法第69条
内閣は、( )で不信任の決議案を( )し、又は信任の決議案を( )したときは、( )以内に( )が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
日本国憲法第70条
( )が欠けたとき、又は( )選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、( )をしなければならない。
日本国憲法第71条
前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が( )されるまで引き続きその職務を行ふ。
日本国憲法第69条、第70条及び第71条(解答)
日本国憲法第69条
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
日本国憲法第70条
内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。
日本国憲法第71条
前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。
日本国憲法第69条、第70条及び第71条(解説)
統治機構の条文を見る際の前提
統治機構の勉強をする場合には全体像を把握しながら学習をしていきましょう。
権力分立の話をする場合、必ず上の図が頭に入っていなければなりません。「権力者」の中の話をしているのだという前提が必要です。
日本型統治のありかた「シラス政治」の解説は別のコンテンツにあるので参照してください。日本の教科書からはほぼ抹殺されていますが、とても大切な考え方です。
その上で、「国会」「内閣」及び「裁判所」の条文や制度を勉強する場合には、必ず「権力分立」の図を頭に置きながら、どこの機関の何の話をしているのかを全体像を見ながら勉強してください。これは「国会」「内閣」及び「裁判所」を勉強するときの地図のようなものだと思ってください。
衆議院による内閣不信任決議の効果(日本国憲法第69条の解説)
69条解散について
今回のところは、まさに上の三権分立の図でも重要条文の1つとも言える日本国憲法第69条の衆議院による内閣不信任決議についてのお話です。
国会は内閣のリーダーである内閣総理大臣を指名し、内閣は国会に対して責任を負うという関係でした。これは、【憲法条文シリーズ】 日本国憲法第65条、66条及び68条についてでも述べたとおりです。これを議院内閣制と呼ぶのでした。
ただ、内閣が国民にとって有益な政治を行っていないにもかかわらず、単に「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」(日本国憲法第66条第3項)と言っているだけでは内閣にとっては痛くもかゆくもないですよね。そこで、内閣に対して不満が出たときに、衆議院に対して大きな権限を与えました。それが日本国憲法第69条のハナシです。
条文を分解して1つ1つを丁寧に見ていきましょう。
まずは要件の部分です。まず2つの場合が書かれています。これを助詞などを補いながら抽出してみます。
- 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決したとき
- (衆議院で)信任の決議案を否決したとき
簡単に言えば、内閣が衆議院から「ダメ出し」をくらった場合と考えてくれて大丈夫です。
衆議院が内閣に対して「ダメだ」と言う意見が通った時に、内閣はどのような対応を取ることができるのでしょうか。条文を見てみましょう。
十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
つまり、内閣は10日以内に衆議院を解散しなければ、総辞職をしなければならないと言っているのです。
10日以内に衆議院の解散を決定しなければならないのは、国会は国民の多数派を反映させた国家機関ですが、その国会に承認を受けていない内閣が存在することは国の超一大事だと考えるからです。10日という期間は国の超一大事を決める時に出てくる期間です。もう一つ憲法に出てきますが、覚えていますか?答えはこちらで載せていますから確認してください。
衆議院を解散することを選んだ場合は、衆議院は解散して選挙が行われます。選挙制度は大丈夫ですか?選挙制度が全く思い出せない人はこちらで確認してください。
そして、当選した新しい衆議院議員が国会にやってきて新たに内閣総理大臣の指名を行いますが、そこで開会される国会の種類は答えられますか?国会の種類の基礎はこちら。
前に習ったことをこのように振り返って思い出してください。思い出して即答できるかを試すことが知識の定着の第一歩ですよ。
69条解散以外の衆議院の解散
最後に、衆議院の解散について簡単に言及しておきたいことがあります。それは衆議院の解散は日本国憲法第69条を根拠にしか行うことができないのか?という問題です。通説も実務慣例もNOです。日本国憲法第7条の天皇の国事行為の規定を根拠に衆議院を解散することも可能です。天皇の国事行為は内閣の助言と承認によって行われるものです。国民に内閣の信任を問うなどといった内閣の意思は尊重されて然るべきです。ちなみに、日本国憲法下における衆議院の解散は、ほぼ憲法第7条の規定に基づいて行われています。69条解散は以下のたったの4回です。
- 第1回「馴れ合い解散」(昭和23年(西暦1948年))
- 第3回「バカヤロー解散」(昭和28年(西暦1953年))
- 第12回「ハプニング解散」(昭和55年(西暦1980年))
- 第16回「政治改革解散」(平成5年(西暦1993年))
内閣が総辞職しなければならない場合
次に、内閣が総辞職しなければならない場合についてコメントしていきます。先ほどの日本国憲法第69条を含めると、内閣が総辞職するケースは全部で3つあります。
- 衆議院で不信任の決議案を可決し又は信任の決議案を否決したときに、内閣が10日以内に衆議院を解散しなかったとき (日本国憲法第69条)
- 内閣総理大臣が欠けたとき (日本国憲法第70条)
- 衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったとき(日本国憲法第70条)
2.と3.について簡単に解説します。
2.は、内閣総理大臣が死亡したときを連想できればOKです。
3.は、「衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったとき」には、国会で内閣総理大臣が選ばれ、のちに内閣総理大臣が国務大臣を選ぶことになりますので、そこで前の内閣は用済みになるので総辞職しましょうということです。
総辞職から新たに内閣が誕生するまでの空白期間は誰が国の舵取りを行うのか!? – 日本国憲法第71条
ところで、総辞職して新たに内閣が誕生するまでの空白期間はどうなってしまうのでしょうか。その答えが憲法71条に書いてあります。
「内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行う。」
つまり、前の内閣にもう少しだけ頑張ってもらうことになっています。