【日本国憲法第60条】予算の先議権と衆議院の優越―30日ルールと両院協議会の仕組みを完全解説

憲法60条(予算)を解説!衆議院の優越と30日ルール・覚え方 日本国憲法穴埋め問題条文解説シリーズ
憲法60条(予算)を解説!衆議院の優越と30日ルール・覚え方
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憲法の学習において、多くの受験生が苦戦するのが「数字」と「要件」の暗記です。

特に日本国憲法第60条で定められた「予算」に関しては、以下のような疑問で混乱してしまうことがよくあります。

  • 「なぜ予算だけは衆議院から先に審議するのか?」
  • 「衆議院と参議院で意見が割れたとき、必ず両院協議会を開くんだっけ?」
  • 「自然成立するのは30日?それとも60日?」

憲法第60条は、単に予算の手続きを定めただけでなく、「衆議院の優越」を理解するための最も重要な条文の一つです。また、内閣が作成した予算を国会が審議するというプロセスは、権力分立 [チェック・アンド・バランス]の縮図でもあります。

この記事では、条文の穴埋め確認からスタートし、予算先議権の法的根拠、そして試験頻出の「30日ルール」や「両院協議会」の仕組みについて、他の条文(法律案や条約)と比較しながら解説します。

単なる暗記ではなく、統治機構の全体地図(マクロな視点)を持ちながら、第60条の仕組みをマスターしていきましょう。

日本国憲法第60条(穴埋め問題)

以下の条文は日本国憲法第60条の条文である。空欄を埋めなさい。

第六十条

  1. 予算は、さきに( )に提出しなければならない。
  2. 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、( )を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて( )以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。 
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日本国憲法第60条(解答)

第六十条

  1. 予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
  2. 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。 

日本国憲法第60条(解説)

統治機構の条文を見る際の前提

統治機構の勉強をする場合には全体像を把握しながら学習をしていきましょう。

日本型ガヴァナンスの図
日本型ガヴァナンスの図

権力分立の話をする場合、必ず上の図が頭に入っていなければなりません。「権力者」の中の話をしているのだという前提が必要です。

日本型統治のありかた「シラス政治」の解説は別のコンテンツにあるので参照してください。日本の教科書からはほぼ抹殺されていますが、とても大切な考え方です。

その上で、「国会」「内閣」及び「裁判所」の条文や制度を勉強する場合には、必ず「権力分立」の図を頭に置きながら、どこの機関の何の話をしているのかを全体像を見ながら勉強してください。これは「国会」「内閣」及び「裁判所」を勉強するときの地図のようなものだと思ってください。

憲法第60条の条文理解の前提: 予算案の可決までの大まかな流れ

今回のテーマは憲法第60条ですが、予算がどのように作られるのかを簡単に解説しながら憲法60条の1項と2項について解説をしてみましょう。

予算案の議決までのプロセス
予算案の議決までのプロセス

まず、予算は内閣が作ります。それを国会に予算案を提出します(憲法第86条)。予算を作成するのは内閣だという点が急所です。日本国憲法の「国会」の章(憲法第41条以下)以降の統治機構の条文は主語が大事です。

憲法第60条の条文は内閣が予算案を提出したところから始まります。

日本国憲法第60条第1項 – 予算先議権

国会に予算案が提出されたら、衆議院から予算案が審議される点が第2の急所です。衆議院から審議を開始しなければならないとしているのは予算の作成の場面だけです。そして、衆議院で可決(先議)されてから参議院に送付されるべきであると解釈されています。この点、法律案の審議や内閣総理大臣の指名などは参議院から審議を開始しても法的にはOKなのです。これが予算先議権よさんせんぎけんとで、憲法第60条1項の内容です。

衆議院は参議院と比べて任期が短く、解散があります。つまり、衆議院は国民の意思がより反映された議院です。また、予算は国民から集めた税金を国の政治のどの部分にどれぐらい使うのかを決定する大切な意思決定の場面です。そういった意味で、衆議院から優先的に議論を始めるようにしようと考えられたのがこの予算先議権です。

日本国憲法第60条第2項(衆議院の優越の規定) – 予算案について衆議院と参議院とで異なる決議がなされた場合や衆議院で可決後に参議院でなかなかされない場合の規定

まずは原則から押さえておきます。

日本の国会は衆議院と参議院から成立する二院制を採用しています(憲法第42条)。それゆえに、各議院が独立して議事を行い、両議院の議決が一致したときに初めて国会の意思が成立するという制度設計になっています。

それでは、衆議院と参議院とで異なった結論が出た時や参議院でちっとも議論が始まらない場合に、どのような対応をすべきなのでしょうか?憲法第59条は法律案についての話でしたが、憲法第60条に掲げられている予算についてはどのように対応していくのでしょうか?

この状況を解決するのが日本国憲法第60条第2項の条文です。

それでは条文の文言を使って解説をしていきます。まず2パターンの状況が書いてあることを読み取りましょう。以下に示します。

  1. 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、
  2. 参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないとき、

と書いてあります。この2つのパターンを「又は」という接続詞でつないでいます。「又は」という接続詞は、2つ以上の語句を対等な関係で並列し、その中の「いずれか」を選択する場合に用いられます。英語の “or” に相当します。ここでは2つのパターンのどちらかであれば…という状況だということを理解しておきましょう。

これらの2つのどちらかの場合、「衆議院の議決を国会の議決とする。」と書いてあります。つまり、参議院の意思に関わらず予算は成立してしまうということを言っています。かなり衆議院に強い力を憲法が持たせていることが分かります。

以下は、なぜ2つのパターンが置かれているのかを検討していくことにします。

予算について参議院と衆議院が異なる議決をした場合について – 両院協議会を必ず開かなければならないのはなぜ?

1番目のパターンの参議院と衆議院が異なる議決をした場合についてです。このパターンの場合には、両院協議会は必ず開催されなければなりません

もしこの場合において両院協議会が開かれなければどうなるでしょうか?

条文を少し操作すれば分かります。

予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、…(中略)…衆議院の議決を国会の議決とする。 

これを以下のように条文を改造してみましょう。

予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、…(中略)…衆議院の議決を国会の議決とする。 

「予算について参議院と衆議院で異なる議決には衆議院の議決を国会の議決とする」という条文になってしまいます。これでは参議院の存在意義がなくなってしまいます。

そこで、両院協議会を開くことで参議院にも予算の決定プロセスに参加してもらうことで、二院制の存在意義を保障しようとしているわけです。条文では「両議院の協議会を開いても…」と規定があります。これは必ず開催することが前提の内容です。比較すべき条文は憲法第59条第3項の「法律案の再議決」時の両院協議会の開催についての条文です。

憲法第59条第3項
前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない

「両院の協議会を開くことを妨げない」ということは「開いてもいい」し「開かなくてもいい」ということです。どうしてこのような違いがあるのでしょうか?

ヒントは憲法第59条第4項にあります。解説はぜひ憲法第59条の解説をご覧ください

最後に、条文にある「法律の定めるところにより」というのは具体的には国会法に定めがあります。

両院協議会は衆議院と参議院からそれぞれ10名が委員が出てきて彼らによって構成されます。そして、出席協議委員の3分の2以上の多数で可決された時に両院協議会としての成案になります(国会法第92条第1項)。そして、衆議院と参議院の両方で成案をそのまま議決すると国会の成案とみなされます。

参議院が衆議院の可決した予算を受け取った後に30日を超えて議決しないときに衆議院の議決になるのはなぜ?

2番目のポイントは、衆議院から参議院に送られてきてから30日を超えて審議が行われなかった場合、自動的に衆議院の議決となってしまうという点です。もちろん休会の期間は除きます。

どうしてこのような規定があるのでしょうか?

国の予算がずっと決まらない状態は望ましい状況ではありません。国政が停滞してしまいます。国民の生活に大きな影響が出てしまいます。そこで、30日以内に審議をせよ!と憲法には書かれているのです。

この点、参議院に与えられた議決期間について、衆議院の優越の他の規定との比較をしてみましょう。

  • 法律案の再議決(憲法第59条第4項):60日
  • 予算の議決(憲法第60条第2項):30日
  • 条約の承認(憲法第61条第2項→憲法第60条第2項):30日
  • 内閣総理大臣の指名(憲法第67条第2項):10日

予算や条約と比べると、

  • 法律案の再議決の方が慎重に議論をすべきだから60日待ってもいいのではないか?
  • 内閣総理大臣が決められない状態=国のリーダーが決まらないってヤバいから10日

と自分は覚えました。

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衆議院の優越の規定について

以下のコンテンツを使って、衆議院の優越の規定をまとめておきましょう!

そして、以下のクイズに答えられるようにしてください。答えは載せません。各条文の解説を見て答えてください。

  1. 衆議院の先議権はあるか?
  2. 議決に際して参議院に与えられた期間はどれぐらいか?
  3. 参議院が議決しない場合の効果はどのように異なるか?
  4. 衆議院と参議院の議決が異なった場合、衆議院での再議決は必要か?
  5. 両院協議会は必ず開かなければならないか? 

法律案の再議決

条約の締結の承認

内閣総理大臣の指名

日本国憲法条文解説シリーズ

高校の公共・政治経済の授業では、憲法の理念や制度を幅広く学びます。しかし、教科書や参考書を読んでいると、「結局、この条文には何が書いてあるのか」「試験ではどこが問われるのか」が見えにくくなることもあります。

この「条文解説シリーズ」は、学問体系から説明するのではなく、条文そのものを起点に憲法を読み解くことを重視した教材です。穴埋め問題を通して条文の構造を確認しながら、公共・政治経済で学ぶ内容や入試で問われるポイントを条文レベルで整理していきます。

条文を正確に押さえることは、暗記のためだけではありません。条文を軸に理解を積み重ねることで、知識は断片ではなく、使える判断材料へと変わっていきます。

本シリーズは、公共・政治経済の学習と大学入試対策を同時に支える、条文起点型の憲法解説です。

日本国憲法穴埋め問題条文解説シリーズ
日本国憲法を条文ベースで読み解く解説シリーズ。穴埋め問題で暗記と理解を両立し、公共・政治経済や大学入試、司法試験や予備試験、司法書士試験、行政書士試験、公務員試験に直結する力を養います。
KÁSHIRO Masahiro [加代 昌広]

日本まほろば社会科研究室客員研究員
ブロガー、インスタグラマー、日本スペイン法研究会会員
 
法学の専門知識を活かし、日本とスペインの法制度について深く研究しています。日本スペイン法研究会の一員として「現代スペイン法入門」(嵯峨野書院)や「Introducción al Derecho Japonés actual」(Editorial Thomson Reuters – Aranzadi)の一部を執筆しました。

また、日本まほろば社会科研究室」内で、小中高校生向けの社会科教育に役立つ数多くのコンテンツの制作に協力し、自らもコンテンツの執筆を行っています(コンテンツはリンクをクリック)。

自身のさまざまな経験から得た「学びの楽しさ」を、日本まほろば社会科研究室からアップロードされるコンテンツを通じて共に学びを共有する皆さまに向けて伝えることを使命としています。

X JAPANやThe Last RockstarsのリーダーであるYOSHIKIさんの熱心なファンでもあります。

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