今回は、日本国憲法第67条の条文穴埋め問題を解きながら、「内閣総理大臣の指名」についてわかりやすく解説してみました。同時に、試験でもよく出題される「衆議院の優越」についてもまとめてみました。
憲法条文シリーズは、試験でよく出そうな日本国憲法の条文を解説するシリーズです。
まずは問いに答えて、それから解説を読んでポイントを掴むようにしましょう。
復習は、条文を音読し、間違えた場合は正解を覚えましょう。空欄のまま条文が読めるようになれば合格です。
日本国憲法第67条(穴埋め問題)
- 内閣総理大臣は、( )の中から( )の議決で、これを( )する。この( )は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
- 衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて( )以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、( )の議決を国会の議決とする。
日本国憲法第67条(解答)
- 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
- 衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
日本国憲法第67条(解説)
統治機構の条文を見る際の前提
統治機構の勉強をする場合には全体像を把握しながら学習をしていきましょう。
権力分立の話をする場合、必ず上の図が頭に入っていなければなりません。「権力者」の中の話をしているのだという前提が必要です。
日本型統治のありかた「シラス政治」の解説は別のコンテンツにあるので参照してください。日本の教科書からはほぼ抹殺されていますが、とても大切な考え方です。
その上で、「国会」「内閣」及び「裁判所」の条文や制度を勉強する場合には、必ず「権力分立」の図を頭に置きながら、どこの機関の何の話をしているのかを全体像を見ながら勉強してください。これは「国会」「内閣」及び「裁判所」を勉強するときの地図のようなものだと思ってください。
内閣総理大臣が誕生するまでの道のり
日本国憲法第67条には内閣総理大臣が指名される場面についてのアレコレが規定されています。ここで、条文の枠を超えて、内閣総理大臣がどのように誕生するのかの全体像を見ておこうと思います。
内閣総理大臣は国会議員の中から選出されます(日本国憲法第67条第1項)。したがって、STEP1ではまず国会議員になる必要があります。選挙については、日本国憲法第47条の解説のところでも述べた通りです。また、選挙権や被選挙権についての解説も合わせて参照してください。
STEP2については、以下くわしく取り上げるところです。
STEP3については、天皇陛下の国事行為のところで取り上げました。ついでに、最高裁判所長官の指名・任命と天皇陛下とはどのように関わっているのか分かりますか?分からない人は天皇の国事行為についての解説をご覧ください。
日本国憲法第67条第1項
憲法67条1項に、
「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。」
とあります。上の絵のSTEP2のそのままです。
試験対策として注意すべき点としては言葉に注意をすることですね。下に示す文は全て誤りの文です。
- 内閣総理大臣は、衆議院議員の中から国会の議決で、これを指名する。
- 内閣総理大臣は、国会議員の中から衆議院の議決で、これを指名する。
- 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で任命される。
よくみなさんがよく引っかかってくれる文の一例です。どこが違うのかは分かりますよね。
日本国憲法第67条第1項には、後段で
「この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。」
とあります。国会は法律案の審議をしたり予算案の審議をしたりととても忙しいですが、そのような中でも内閣総理大臣の指名は最優先でやりましょうということが書かれています。内閣のトップを決めることは国の超一大事ですから、その感覚があれば理解は簡単でしょう。
日本国憲法第67条第2項 – 内閣総理大臣の指名が衆議院と参議院で異なった場合は!?(衆議院の優越)
日本国憲法第67条第2項の条文はとても大切な条文です。内閣総理大臣の指名の決議について、衆議院と参議院とで異なった決議が行われてしまった場合にどうなるか!?という議論です。
条文を見てみましょう。
衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
日本国憲法第67条第2項
この条文は、衆議院の優越の場面の1つである「予算案の決議」の規定である日本国憲法第60条第2項ととてもよく似た条文なのです。日本国憲法第60条第2項を抜粋してみましょう。
予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
日本国憲法第60条第2項
条文を比較すると、日数を除けば全く同じ条文構造になっていることが分かると思います。なぜ10日なのかと言われれば、内閣総理大臣の指名は国の超一大事なので、放置プレイの期間はできるだけ短くすべきだからといったところでしょうか。
では、日本国憲法第67条第2項の条文を解説していきます。
- 衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき
- 衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて10日以内に、参議院が、指名の議決をしないとき
日付を除いては、予算案の承認と全く同じ条文構造になっています。
注意を要する点としては、予算案のように衆議院から先に内閣総理大臣の指名の決議を行う必要はありません。この点、予算案の議決の場合の日本国憲法第60条第1項のような「予算先議権」の規定はありません。
衆議院の優越の条文のまとめ
衆議院の優越の条文については、以下の5つのポイントが即答できるようにしておくことが試験対策上では求められます。
- 衆議院の先議権はあるか?
- 議決に際して参議院に与えられた期間はどれぐらいか?
- 参議院が議決しない場合の効果はどのように異なるか?
- 両院協議会は必ず開かなければならないか?
- 衆議院と参議院の議決が異なった場合、衆議院での再議決は必要か?
ここで、それぞれの条文について、簡単にまとめをしてみましょう。
日本国憲法第59条第2項・第3項・第4項
「法律案の再議決」についてまとめてみましょう。
- 衆議院の先議権はなし。
- 議決に際し参議院に与えられた期間は60日間。
- 参議院が議決しない場合は、衆議院は参議院の議決を否決したとみなすことができる。
- 両院協議会を開催することができる。
- 衆議院と参議院とで異なった議決がなされた場合における衆議院での再議決は必要。(表決権は出席議員の3分の2以上)
日本国憲法第60条 – 予算案の議決について
「予算案の審議」についてまとめましょう。
- 衆議院の先議権はあり。
- 議決に際し参議院に与えられた期間は30日間。
- 参議院が議決しない場合は、衆議院の議決を国会の議決とする。
- 両院協議会は必ず開催されなければならない。
- 衆議院と参議院とで異なった議決がなされた場合における衆議院での再議決は不要。
日本国憲法第61条 – 条約の締結の承認について
「条約の承認」についてまとめましょう。
- 衆議院の先議権はなし。
- 議決に際し参議院に与えられた期間は30日間。
- 参議院が議決しない場合は、衆議院の議決を国会の議決とする。
- 両院協議会は必ず開催されなければならない。
- 衆議院と参議院とで異なった議決がなされた場合における衆議院での再議決は不要。
日本国憲法第67条第2項 – 内閣総理大臣の指名について
「内閣総理大臣の指名」の場面は、
- 衆議院の先議権はなし。
- 議決に際し参議院に与えられた期間は10日間。
- 参議院が議決しない場合は、衆議院の議決を国会の議決とする。
- 両院協議会は必ず開催されなければならない。
- 衆議院と参議院とで異なった議決がなされた場合における衆議院での再議決は不要。
という特徴を持つことになります。