憲法条文シリーズは、試験でよく出そうな日本国憲法の条文を解説するシリーズです。
まずは問いに答えて、それから解説を読みます。さらに、発展的な内容については<発展>という項目で解説を試みます。社会科が苦手だなと思う人は<解説>まで。得意だという人は<発展>まで読んでみてください。
復習は、条文を音読し、間違えた場合は正解を覚えましょう。空欄のまま条文が読めるようになれば合格です。
今回は、裁判官が辞めさせられる弾劾裁判についての条文である日本国憲法第64条について解説したいと思います。
日本国憲法第64条(穴埋め問題)
第六十四条
- 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、( )の議員で組織する( )を設ける。
- 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。
日本国憲法第64条(解答)
第六十四条
- 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
- 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。
日本国憲法第64条(解説)
統治機構の条文を見る際の前提
統治機構の勉強をする場合には全体像を把握しながら学習をしていきましょう。
権力分立の話をする場合、必ず上の図が頭に入っていなければなりません。「権力者」の中の話をしているのだという前提が必要です。
日本型統治のありかた「シラス政治」の解説は別のコンテンツにあるので参照してください。日本の教科書からはほぼ抹殺されていますが、とても大切な考え方です。
その上で、「国会」「内閣」及び「裁判所」の条文や制度を勉強する場合には、必ず「権力分立」の図を頭に置きながら、どこの機関の何の話をしているのかを全体像を見ながら勉強してください。これは「国会」「内閣」及び「裁判所」を勉強するときの地図のようなものだと思ってください。
日本国憲法第64条は、国会(立法権)から裁判所(司法権)に向けての矢印について述べられたものだということをおさえた上で、下の解説を読んでいきましょう。
弾劾裁判とは?
裁判所というのは、法的な具体的な事件を通して基本的人権を守る国家機関であるべきだと考えるのが一般的です。国会や内閣は世の中の多数派の考え方を反映させた国家機関です。それは当然のことです。それに対して、裁判所で裁判を行う裁判官は公平であるべきです。多数派からも距離を置いておく必要があるし、少数派の意見にも耳を傾けなければなりません。法令に基づいて裁判官の自由意志に基づいて裁判を行うべきだとする考え方のことを裁判官の独立と言います。裁判官の自由意志を尊重するために、裁判官はよほどの理由がなければ辞めさせられることはありません。これが原則です。
さて、国会から裁判所に向いている矢印の意味は、その「よほどの理由」があった時に、国会が裁判を行う裁判官を裁判して裁判官を辞めさせることができることを示しています。それが弾劾裁判です。
弾劾裁判の裁判官は、両議院の国会議員から構成されます。両議院のところを参議院という言葉と入れ替えて引っかけで出題されることがあります。
第2項が具体化されているのが裁判官弾劾法という法律です。
弾劾裁判で罷免された事例(オマケ)
裁判官弾劾法第2条には、裁判官が弾劾される事由が載っています。
(弾劾による罷免の事由)
裁判官弾劾法第2条
第二条 弾劾により裁判官を罷免するのは、左の場合とする。
一 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。
二 その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。
では、どのような内容の弾劾裁判が行われたのか。罷免された、つまり辞めさせられた事例をあげます。数はそんなに多くはありませんが、事例を見れば辞めさせられても仕方ないかなぁというものばかりですね。
- 逮捕・差し押さえなどの各種の令状にあらかじめ署名捺印した白紙令状を作成し、裁判所職員に渡しておいた。
- 裁判の現地調停、当事者である申立人から800円相当の饗応(「もてなし」のこと)を受け、その後、もみ消しを図った。
- 首相への偽電話事件
- 担当事件の弁護士からゴルフセット一式と背広三つ揃い2着(時価18万円)を収賄し、逮捕された。
- 児童買春
- ストーカー行為
- 電車内で女性のスカートの中を盗撮したとして、大阪府迷惑防止条例違反で略式起訴され、有罪判決を受けた。
箇条書きの内容はもちろん覚えなくてもよいですが、まぁ品位に欠けるものばかりですね。「よほどの理由」と言ってもよいでしょうね。
ボクが中学生の時は、裁判官になるような人たちはみんな潔白な人たちだろうと思っていたので弾劾裁判なんて行われていないのではないかと思っていましたが、調べてみると上のような事件が出てきました。考えてみれば、警察官や学校の先生だって悪い人は悪いのですから、裁判官だけがいい人というのは理屈としてあり得ないですね。
雑談は中学校時代のボクに向けて書いたものでございました(笑)。