執筆 & 訳: 加代 昌広(KÁSHIRO Masahiro)
ポツダム宣言の全文の内容を和訳してみるシリーズです。
今回はポツダム宣言の第9項を和訳してみます。構成は、英文、公式邦訳、試訳とその解説の順になっています。
なお、ポツダム宣言が作成された背景については、「ポツダム宣言の全文をわかりやすく解説してみました」というコンテンツでくわしく解説しましたので、そちらをご覧下さい。
英文
(9) The Japanese military forces, after being completely disarmed, shall be permitted to return to their homes with the opportunity to lead peaceful and productive lives.
公式邦訳
九、日本国軍隊ハ完全ニ武装ヲ解除セラレタル後各自ノ家庭ニ復帰シ平和的且生産的ノ生活ヲ営ムノ機会ヲ得シメラルヘシ
解説
The Japanese military forcesが主語になります。「日本国軍隊は」と訳しておきます。次に分詞構文が入ります。ここではdisarmは「武器を取り上げる」という動詞で、これが過去分詞になっています。after being completely disarmedは「完全に武装解除された後」と訳しておくのがスマートです。
shall be permittedが述語動詞になり、「許されるものとする」という意味になります。shallという助動詞を「〜するものとする」という訳にしています。
「何が許されるのか」と言ったら、それがto以下の不定詞の部分です。具体的に見ていくと、to return to their homesつまり「家に帰ること」ということです。戦地から家に戻ることが許されるということです。
with the opportunity は「機会をもって」、もう少し具体的に言うとそれがto lead peaceful and productive lives「平和的で生産的な生活を送る」ということです。この部分は文法的にいうと、不定詞の形容詞的用法になります。まとめると、「平和で生産的な生活を送る機会を得て」といった感じにすると自然な日本語になると思います。
まとめ – ポツダム宣言第9項試訳
日本軍は、完全に武装解除がされた後に、平和で生産的な生活を送る機会を得て家に戻ることを許されるものとします。
「ポツダム宣言」の第5項では、「私たちの条件は次に述べるとおりです。」とあり、以降にその条件が第6項以下に書かれているという形式をとっています。したがって、「ポツダム宣言」は日本及び米英中ソが拘束されるものです。
しかしながら、実際は違いました。シベリアにいた日本人60万人をソ連は帰国させなかっただけでなく、約6万人の日本人が過酷な強制労働をさせられました。これは国際法の観点からは違法であると解さざるを得ません(「第141回国会 9 シベリア抑留者に関する質問主意書」)。
国際ルールを守らなかったのはやはり卑怯というべきでしょうが、戦争に負けてしまった後の「総力戦」というのは戦闘が終わった後からが本番なのだという事実だとも言えましょう。
シベリアに多くの日本人が取り残された事実は記憶に刻んでおくべきことだと考えます。