今回は、日本国憲法第37条の条文の穴埋め問題を解説しながら、「刑事被告人の人権」について分かりやすく解説をしていきます。
憲法条文穴埋め解説シリーズは、試験でよく出そうな日本国憲法の条文を解説するシリーズです。
まずは問いに答えて、それから解説を読みます。さらに、発展的な内容については<発展>という項目で解説を試みます。社会科が苦手だなと思う人は<解説>まで。得意だという人は<発展>まで読んでみてください。
復習は、条文を音読し、間違えた場合は正解を覚えましょう。空欄のまま条文が読めるようになれば合格です。
日本国憲法第37条(穴埋め問題)
第三十七条
第1項 すべて刑事事件においては、被告人は、( )な裁判所の( )な( )を受ける権利を有する。
第2項 刑事被告人は、すべての証人に対して( )する機会を充分に与へられ、又、( )で自己のために強制的手続により( )を求める権利を有する。
第3項 刑事被告人は、いかなる場合にも、( )を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
日本国憲法第37条(解答)
第三十七条
第1項 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
第2項 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
第3項 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
日本国憲法第37条(解説)
刑事手続きの流れ
まずはこの条文の意味が分かるための前提知識として、刑事手続の流れを見ておきましょう。
殺人や盗みなど何らかの犯罪が発生した場合、その罪を犯した人には罪の重さに応じた適正な刑罰を科さなければならず、真の犯人に適正な科刑を行うための一連の手続が「刑事手続」です。
人権保障の観点から,真の犯人でない者に刑罰を科すことは当然許されませんし、また、権力を持った人たちが自分勝手に逮捕し刑罰を科すことも許されません。そこで、日本国憲法は、法律で定められた手続によらなければ刑罰を科すことができないと定めており(日本国憲法第31条)、これを受けて刑罰を科すための具体的な手続を刑事訴訟法(けいじそしょうほう)という法律に定めています。
刑事手続きは、大きく捜査(そうさ)の場面と公判(こうはん)(裁判)の場面の2つに分けることができます。何らかの犯罪が発生した場合に、その犯人として捜査の対象となった者(罪を犯した疑いのある者)のことを被疑者(ひぎしゃ)と呼びます。そして、捜査(そうさ)の場面から公判(裁判)の場面へのかけ橋になるのが、起訴(きそ)と呼ばれる手続です。被疑者が起訴されると、被疑者は被告人(ひこくにん)と名前が変わります。
日本国憲法第37条の規定は被告人についての規定
前置きが長くなりましたが、憲法第37条が想定しているのは被告人についてのハナシです。
日本国憲法第37条第1項
日本国憲法37条1項は、「刑事事件の裁判は、公平・迅速・公開である必要がある」ということです。
公平について
被告人を裁いている裁判官が被告人の父親だったら…
検察官の母親が裁判官だったら…
公平な裁判を期待できるでしょうか?
刑事訴訟法という法律の中で「被告人がこういう人の場合には裁判官は裁判を行うことができません」という場合が具体的には定められています。裁判が平等でなくてはいけないのは当然でしょう。
迅速について
裁判には迅速性が求められます。
裁判が長引けば証拠もだんだんとなくなっていきますので、正確な事実認定ができなくなり、公正な裁判が保障できません。
また、刑事裁判によって被告人は「身体的自由権」が制限されています。これが長く続くと、人権が侵害された状態が続いてしまいます。
だから、裁判には迅速性が求められるのです。
公開について
密室で裁判が行われると、公正な裁判が保障できなくなります。みなさん悪い事をしたことってたぶんあると思いますが(苦笑)、悪い事って堂々とやる人っていないですよね?だいたいコソコソ隠れてやったりしますよ。
裁判官が悪い裁判をしないように、裁判はみんなに見られた状態でやりましょう!というのが刑事裁判を公開して行う理由です。
日本国憲法第37条第2項の解説
憲法37条2項は少し説明が必要です。刑事裁判で被告人を訴えているのは検察官(けんさつかん)です。被告人が犯罪をしたかどうかは刑事裁判の中で検察官が証拠に基づいて証明しなければなりません。公判手続きの中では検察官は被告人が罪を犯していることを立証するために証人を呼んでくることがあります。ここでもし被告人が「そのハナシは違う!」と言えなかったらどうなるのか?ということです。検察官が被告人の罪を認めさせたい方がために証人とグルになって被告人にとって不利益な証言が法廷の中でできてしまいます。これは被告人の人権を侵害していると言えるのではないでしょうか?それが、日本国憲法第37条第2項前段の「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ」の部分のハナシです。これを証人尋問権(しょうにんじんもんけん)と言いますが、中高生の皆さんはこの言葉まで覚えなくてもよいです。
また、犯罪を疑われている被告人も証人を呼びたいと言うこともあると思います。検察官は国家機関ですが、被告人は一般人であることの方が多いです。証人を法廷の中に引っ張り込みたいのに一般人ではなかなかそれができません。そこで、強制的に法廷に出てきてもらうことを権利として保障しています。また、証人を呼ぶにはカネがかかるのです。そこで、どんな人であっても証人を法廷に呼ぶためのカネを国が出すよと憲法では言っています。これを証人喚問権と言います。日本国憲法第37条第2項後段の「公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。」の部分のハナシです。
日本国憲法第37条第3項の解説
検察官は法的な手続きのプロ中のプロです。一方で、被告人の多くは法的な手続きに明るい人は多くありません。つまり検察官と被告人との間には大きな力の差があります。ですから、被告人を手助けする弁護人が必要です。お金のある被告人は自費で法律のプロである弁護士に頼むことができますが、お金がなかったり、あまりに酷い犯罪で(理由はいろいろですが…)弁護士が仕事を誰も引き受けてくれなかったりすると、被告人は困ってしまいます。
弁護士がついた状態で刑事裁判手続きを行いましょう!ということが定められています。これを弁護人依頼権と言います。