執筆 & スペイン語訳: 加代 昌広 (KÁSHIRO Masahiro)
前回は4月29日の昭和の日を紹介しました。

今回は5月3日の憲法記念日を取り上げたいと思います。
憲法記念日とは、日本における重要な祝日の一つであり、毎年5月3日に日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する日として定められています。
祝日法を読んでみましょう。
日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する
祝日に関する法律第2条より
と書いてあります。
今回の記事は、日本国憲法が制定されている歴史的背景を概観していくことにしましょう。
なお、この記事の作成にあたっては、渡邉尚久校長先生の講話を参考にしています。
歴史的背景とその意義
日本国憲法は、昭和21年(西暦1946年)11月3日の明治天皇の御誕辰に公布され、昭和22年(西暦1947年)5月3日に施行されました。「公布」というのは、成立した法律や政令を国民に周知することを指します。これに対して、「施行」はそれが実際に効力が生じることを指します。憲法記念日は、日本国憲法の施行日を記念して定められました。
なぜ憲法記念日を「公布日」ではなく「施行日」としたのだろうか?
憲法記念日を「公布日」とするか?「施行日」とするか?をめぐって議論が行われたようです。その経緯を簡単にみてみましょう。
昭和23年(西暦1948年)に『国民の祝日に関する法律』を制定する際、参議院の文化委員会(委員長:山本有三)は、日本国憲法が公布された日である11月3日を「憲法記念日」にしたいと強く主張していました。
しかし、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の民間情報教育局は、「憲法記念日なら、施行日である5月3日でいいではないか」とこれに強く反対しました。その理由は、11月3日が「明治節」(明治天皇の御誕辰)と同日であったためです。GHQの担当者によれば、オーストラリアなどの連合国から「日本は憲法公布日を11月3日にすることで明治節を温存し、再び復古的な日本に立ち返ろうとしている」という強い非難が寄せられており、11月3日を新憲法の記念日として許可するわけにはいかないという「つらい事情」がありました。さらに、衆議院の文化委員会はすでにGHQの意向に沿って「憲法記念日は5月3日」とする案を承諾していました。また、昭和23年(西暦1948年)の5月3日にはすでに国会や内閣などの共催で憲法施行一周年記念式典が開催されるなど、5月3日を記念日とする流れができていました。
こうしたGHQの断固たる拒否と衆議院側の先行した決定により、山本有三らも「まことにやむを得なかった」として折れ、憲法記念日は施行日である5月3日に定められることになったそうです。
なお、11月3日については、「ほかの名前にしてでも、この日だけは残したい」という山本有三の熱意と粘り強い交渉により、「復古的なにおいのするものであっては絶対許可しない」というGHQの条件の下で、最終的に「文化の日」という別の祝日として制定されることになりました。

中学入試や高校入試や大学入試などの試験対策としては、「公布」と「施行」の言葉の意味を押さえた上で、
昭和21年(西暦1946年)11月3日公布
昭和22年(西暦1947年)5月3日施行
というように年月日全てを順番に言えるようにするのが一番最善だと思います。
日本国憲法の成り立ち
日本国憲法は大日本帝国憲法を改正することによって成立しました。これは上諭と呼ばれる文章に述べられています。
朕󠄂は、日本國民の總意に基いて、新日本建󠄁設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、樞密顧󠄁問の諮󠄁詢及󠄁び帝󠄁國憲󠄁法第七十三條による帝󠄁國議會の議決を經た帝󠄁國憲󠄁法の改正を裁可し、ここにこれを公󠄁布せしめる。
御名 御璽
昭和二十一年十一月三日
日本国憲法の上諭は、形式的には公布令(明治40年勅令第6号)の第3条第1項及び第2項に基づいた文章です。現在の憲法の通説では、上諭については「憲法の一部ではないものの制定プロセスを明文化された文章である」と解されています。
GHQによる占領中におけるこの改正は、日本の国としてのアイデンティティー、さらには国際社会における立ち位置を根本から変えるものでした。
施行から約80年近く経過しました。
しかし、日本国憲法は一度も改正されていません。これは、世界的に見ても非常に珍しい事例であり、憲法が現代の日本社会にどのように適用されているのか、また改正の必要性について議論を促す重要なポイントの1つです。
憲法の条文を変えないことが「護憲」という言葉で表現されていますが、憲法の条文を手続きに則って改正すれば「護憲」です。「護憲」とは「憲法を護る」ことですから、改正条項のある日本国憲法を改正手続きに則って憲法改正すれば「護憲」なはずですね。多くの専門家やメディアで使われている言葉って何かしらおかしいとは思いませんか?

大切にすべき価値観は残しつつも世の中の流れに柔軟に対応していくこともまた大切なのだろうと思います。
憲法記念日の過ごし方 – なぜ日本は「静かな日」なのか?
ここからは、外国の憲法記念日の祝い方と比較しながら、日本における憲法記念日の特徴について考えてみましょう。
日本において憲法記念日は、各地で様々な集会や講演会、メディアでの討論番組が行われる「言論と内省の日」としての性格が強く、国を挙げての派手なパレードや祝祭が行われることは多くありません。では、諸外国ではどのように憲法を祝っているのでしょうか。
ノルウェーの事例:国を挙げての「母国の誕生日」
ノルウェーのように、憲法記念日を国全体で盛大に祝う国もあります。
ノルウェーの憲法記念日である5月17日(憲法制定は西暦1814年)は、単なる休日ではなく「母国の誕生日」として位置づけられています。人々は伝統衣装を身にまとい、街中でのパレードに参加し、家族や友人など大事な人と集まってたくさんの美味しいものを食べて笑顔で過ごします。まさに国家と国民の結びつきを祝う「祝祭」です。
スペインの事例:国家の歴史を身近に感じる日
もう1つ、スペインの例を挙げてみましょう。
スペインでは憲法記念日(毎年12月6日)になると、普段見ることのできない下院議事堂の内部が公開されるなど、国家をあげて特別な取り組みが行われます。
上のスペイン下院の公式Instagramの動画の表紙に書いてあるスペイン語を訳すと、「この憲法の写しは、1978年12月27日に下院議事堂の本会議場で、国家元首が正式な制裁と公布の会議で署名したものです。」と書いてあります。ここでいう「国家元首(Jefe del Estado)」とは当時のスペイン国王のフアン・カルロス1世のことです。憲法の写しの展示も併せてされるようです。
ちなみに、日本でも国立公文書館で毎年春の大型連休の時期に日本国憲法の原本が展示されます(普段は複製)。
これは、私たちが憲法の原点(原本)に触れることのできる貴重な機会です。
【「日本国憲法」原本特別展示中】
— 国立公文書館 (@JPNatArchives) May 2, 2026
国立公文書館では、5/6(水・振休)までの間、「 #日本国憲法 」の原本特別展示を実施しています。
通常は複製を展示しておりますが、実物をご覧いただける貴重な機会です。予約不要、入場無料です。
明日は憲法記念日。ぜひご来館ください🌟https://t.co/3Dyk6uAttp pic.twitter.com/NZHM2fbryi
憲法記念日の過ごし方 – 知的好奇心で「国家」を読み解く
憲法記念日だからといって、必ずしも大規模な集会に参加したり、特別なイベントを行ったりする必要はありません。むしろ、少し立ち止まり、私たち自身が「一学徒」として、多角的な視点から国家や法、そして平和について深く思考することこそが、この日を最も有意義に過ごす方法ではないでしょうか。
ここでは、知的好奇心を刺激する3つのアプローチを提案します。
【比較法学の視点】諸外国の憲法との「読み比べ」を通じた探究
自国の憲法だけを眺めていても、その真の輪郭はなかなか見えてきません。そこで提案したいのが、他国の憲法と並べて読み比べるというアプローチです。
たとえば、西暦1978年に制定されたスペイン憲法は、長期にわたる独裁体制からの民主化という劇的な歴史的転換点の中で生み出されました。他方、日本とスペインは立憲君主の国であるという共通点もあります。それぞれの条文が「国家として何を最も守りたかったのか」を対比させることで、法学的な視座からそれぞれの国家の歩みと理念が鮮明に浮かび上がります。
【歴史学の視点】アジア初の立憲国家への道を「追体験」する
歴史や公民の授業では悪者にされがちな大日本帝国憲法の制定に目を向けてもいいでしょう。
帝国憲法制定前は、「民主的な憲法を作りたい民権派(善)」と「封建的で天皇中心の家長的な憲法を作りたい藩閥政府(悪)」という対立構造で語られがちです。
しかし実際には、伊藤博文ら政府も板垣退助ら民権派も「憲法と国会を創り、欧米と対等な国になる」という国家目標で完全に一致しており、両者の対立は実現に向けたスケジュールの違いに過ぎませんでした。
5月3日という日に、あえて明治22年(西暦1889年)発布の大日本帝国憲法の歴史を紐解き、立場の違いを超えてアジア初の立憲君主国を創り上げた先人たちの連帯を「追体験」することは、生きた社会科の学びとなります。
日本が好きになる歴史授業の齋藤武夫先生の授業がとてもおすすめです。
【国語的視点】憲法の条文を「現代文の課題」として精読する
イデオロギーや政治的な議論を一旦脇に置き、純粋な「日本語のテキスト」として憲法に向き合う方法です。
日本国憲法は、昭和21年(西暦1946年)の公布以来、一言半句変わっていないという極めて特殊なテキストです。 これを、まるで大学入試の現代文の問題を解くように精読してみましょう。主語は誰か、述語は何か、どのような対比構造で論理が展開されているのか。極めて精緻に論理分析を行い、「書かれていること」と「書かれていないこと」の境界線を浮き彫りにする作業は、知的興奮を呼び起こすはずです。
余裕がある人はぜひ英文と日本語を比較しながら条文を読むといいと思います。
結論
日本の憲法記念日は、単に休日の一部として過ごすだけではなく、憲法の意義を改めて考え、国の未来について思索する貴重な機会です。
他国の憲法記念日の祝い方や憲法改正に関する事例を参照することで、日本でも憲法記念日をより意義深いものに変えていくことが可能です。
読者の皆様には、この記事をきっかけに日本国憲法についてもう一度考えてみていただきたいと思います。
あなたにとって憲法記念日はどのような意味を持ちますか?
そして、私たちはどのようにしてこの日をより価値あるものにしていけるでしょうか?
一緒に考えましょう!
次回は5月4日の「みどりの日」について取り上げたいと思います。

国民の祝日を考えるシリーズ – 制作のねらい
日本の祝日がいくつあるのか、ご存じでしょうか?
現在、「国民の祝日に関する法律」によって年間16日の「国民の祝日」が設けられており、その日は休日になります。
この法律には国民の祝日を制定する目的が定められています。
自由と平和を求めてやまない日本国民は、美しい風習を育てつつ、よりよき社会、より豊かな生活を築きあげるために、ここに国民こぞって祝い、感謝し、又は記念する日を定め、これを「国民の祝日」と名づける。
「国民の祝日に関する法律」第1条より
「祝日」が「国民こぞって祝い、感謝し、又は記念する日」であることを踏まえ、一人一人の国民が、祝日の意義を考えて、それにふさわしい1日を過ごすことができるようになりたいものです。ところが、その意味について学校で解説されることはあまり多くありません。
そこで、日本まほろば社会科研究室のウェブサイトにコンテンツを立ち上げて、1つ1つの祝日について考えてみたいと考えるようになりました。
他の祝日については、以下のリンク先に掲載されています。


