今回は、日本国憲法に書かれている「内閣総理大臣の権能」及び「内閣の権能」について、わかりやすく解説していきたいと思います。
憲法条文シリーズは、試験でよく出そうな日本国憲法の条文を解説するシリーズです。
今回は、あらかじめ、条文を提示するので、それを皆さんでまとめてもらう作業を行っていただきたいと思います。日本国憲法第72条、73条、74条及び75条にそれが書かれているのですが、これらの条文以外にも日本国憲法の中には内閣総理大臣や内閣の権能についての条文が存在するので、他の条文も読んでいきましょう。
内閣総理大臣及び内閣の権能についての問題
問題
- 内閣総理大臣の権限について、下の参考条文を使ってまとめなさい。
- 内閣の権限について、下の参考条文など(参考条文以外にもあります)を使ってまとめなさい。
問題に関する参照条文
第六十八条
- 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
- 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
第七十二条
内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
- 号 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
- 号 外交関係を処理すること。
- 号 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
- 号 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
- 号 予算を作成して国会に提出すること。
- 号 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
- 号 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
第七十四条
法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。
第七十五条
国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。
内閣総理大臣及び内閣の権能についての問題に対する解答と解説
統治機構の条文を見る際の前提
統治機構の勉強をする場合には全体像を把握しながら学習をしていきましょう。
権力分立の話をする場合、必ず上の図が頭に入っていなければなりません。「権力者」の中の話をしているのだという前提が必要です。
日本型統治のありかた「シラス政治」の解説は別のコンテンツにあるので参照してください。日本の教科書からはほぼ抹殺されていますが、とても大切な考え方です。
その上で、「国会」「内閣」及び「裁判所」の条文や制度を勉強する場合には、必ず「権力分立」の図を頭に置きながら、どこの機関の何の話をしているのかを全体像を見ながら勉強してください。これは「国会」「内閣」及び「裁判所」を勉強するときの地図のようなものだと思ってください。
内閣総理大臣の権限について、下の参考条文を使ってまとめなさい。
内閣総理大臣の権能だという点を意識しましょう。やはり日本国憲法の統治機構の条文は主語(どの機関がどんな権能を持っているのか?)が急所だという点はここでも変わりません。
イメージとしては、内閣総理大臣は内閣のリーダーだという点を意識しながら以下の条文を見ていくと、理解がしやすくなります。
- 国務大臣の任命権(日本国憲法第68条第1項)
- 国務大臣の罷免権(日本国憲法第68条第2項)
- 内閣を代表して議案を国会に提出する権能(日本国憲法第72条)
- 一般国務及び外交関係について国会に報告する権能(日本国憲法第72条)
- 行政各部を指揮監督する権能(日本国憲法第72条)
- 法律・政令の署名及び連署(日本国憲法第74条)
- 国務大臣訴追の同意権(日本国憲法第75条)
用語の注意点を見ておきます。日本国憲法第74条に出てくる「政令」という言葉です。「政令」とは、内閣が制定する命令のことを言います。ご存知の通り、「法律」は国会のみで作ることができます。しかし、何でもかんでも細かい内容までをも「法律」で決めようとすると、国会で審議をすると労力もかかるし時間がかかってしまいます。そこで、基本的なことは「法律」で書いて、細かい内容は内閣で作りましょう(但し法律が意図した範囲を超えた「決まりごと」は作ってはいけない)という使われ方をするのが「政令」という法形式です。
日本国憲法第74条に書いてある署名や連署がなくても法律・政令は効力は発生すると解されています。これは、責任の所在を明確化する意味合いを持ちます。
内閣の権限について、下の参考条文などを使ってまとめなさい。
日本国憲法第73条がらみ
まずは日本国憲法第73条の各号に書かれているので、これを紹介したいと思います。
日本国憲法第73条の冒頭には、「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。」と書かれています。「内閣は」という言葉が主語になっていますね。
- 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。(日本国憲法第73条第1号)
- 外交関係を処理すること。(日本国憲法第73条第2号)
- 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。(日本国憲法第73条第3号)
- 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。(日本国憲法第73条第4号)
- 予算を作成して国会に提出すること。(日本国憲法第73条第5号)
- この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。(日本国憲法第73条第6号)
- 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。(日本国憲法第73条第7号)
特に注意すべきものについては、以下コメントを加えたいと思います。
条約の締結について(日本国憲法第73条第3号)
条約の締結及びその承認について紹介しておきましょう。
条約の締結は内閣のお仕事です。日本国憲法第73条第3号にその旨が書かれています。
しかし、条約は国会の承認が必要です。
ここからが国会の承認の手続に入ります。それが日本国憲法第61条に記載されています。
詳細はリンク先を参照していただきたいのですが、ここでも「衆議院の優越の原則」が働くのでした。
予算案の作成について(日本国憲法第73条第5号)
まずは予算案がどのように成立するのかを整理してみましょう。
日本国憲法第86条には「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。」という規定があり、予算案の作成は内閣が行うことが憲法に明記されています。大切な内閣のお仕事です。(上記のSTEP1)
その後、予算案は国会に持ち込まれます。そして、衆議院から予算案は審議されます。(上記のSTEP2)
両議院で可決されれば予算として成立します。一方で、衆議院と参議院とで異なる議決がされて両院協議会を開いても意見が一致しなかった場合や衆議院で議決後に参議院へ予算案が送られた後に30日以内に議決しない場合については、「衆議院の優越の原則」によって衆議院の議決となります。(上記のSTEP3)
日本国憲法第73条がらみ以外の条文
実はこれだけではありません。憲法の中にある条文の全てではありませんが、主だったものをここに挙げてみます。
なお、くわしい内容については、条文のリンク先をクリックしてご覧ください。その際には、ぜひ条文の主語に注目しながら条文を読んでみましょう。条文はいろんな切り口で読み取ると、条文を深く味わえるようになります。
- 天皇の国事行為についての助言と承認(日本国憲法第3条、7条)
- 最高裁判所裁判官長官の指名(日本国憲法第6条2項)
- 最高裁判所裁判官の任命(日本国憲法第79条1項)
- 下級裁判所の裁判官の任命(日本国憲法第80条1項)
- 衆議院の解散の決定(日本国憲法第7条3号)
- 国会の臨時会の召集の決定(日本国憲法第53条)
- 参議院への緊急集会の請求(日本国憲法第54条第2項)