今回は、日本国憲法第76条第3項をはじめとして、日本国憲法の条文の中に書かれている裁判官の身分保障の条文をまとめてみたいと思います。
憲法条文シリーズは、試験でよく出そうな日本国憲法の条文を解説するシリーズです。
まずは問いに答えて、それから解説を読みます。
復習は、条文を音読し、間違えた場合は正解を覚えましょう。空欄のまま条文が読めるようになれば合格です。
日本国憲法第76条第3項(条文穴埋め問題)
すべて裁判官は、その( )に従ひ( )してその職権を行ひ、この( )及び法律にのみ拘束される。
日本国憲法第76条第3項(解答)
すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
日本国憲法第76条第3項(解説)
統治機構の条文を見る際の前提
統治機構の勉強をする場合には全体像を把握しながら学習をしていきましょう。
権力分立の話をする場合、必ず上の図が頭に入っていなければなりません。「権力者」の中の話をしているのだという前提が必要です。
日本型統治のありかた「シラス政治」の解説は別のコンテンツにあるので参照してください。日本の教科書からはほぼ抹殺されていますが、とても大切な考え方です。
その上で、「国会」「内閣」及び「裁判所」の条文や制度を勉強する場合には、必ず「権力分立」の図を頭に置きながら、どこの機関の何の話をしているのかを全体像を見ながら勉強してください。これは「国会」「内閣」及び「裁判所」を勉強するときの地図のようなものだと思ってください。
裁判官の「良心」に従い…の「良心」とは?
日本国憲法第76条第3項には「すべて裁判官は、その良心に従ひ…」とあります。「裁判官の良心」とは何を指すのでしょうか?
通説では以下のように考えられています。いわゆる日本国憲法第19条でいうところの個人的・主観的な意味での「良心」を指しているわけではありません。
客観的な「裁判官としての良心」を指す言葉であると解されています。裁判官個人の価値観と憲法や法律の価値観とが異なる場合には、憲法や法律の価値観を優先してこれに沿った価値判断をしなければなりません。細かい学説の対立はありますが、ひとまずこれを学者の一般的な考え方として理解しておけば大丈夫です。
裁判官の独立
裁判官は憲法や法律以外には何にも拘束されずに裁判を行うことができます。
もし、国会や内閣の意見にしばられて裁判官が裁判を行ったらどうなるでしょうか。国民が国を相手に行った裁判はおそらく確実に国民側は負けるはずです。 何のために裁判を受ける権利が国民に認められるのかというと、最終的には国民の人権を守るためにあるわけです。裁判が公正に行われなければ人権の保障ができないというわけです。これが、日本国憲法第76条第3項が定められた趣旨です。
「裁判官の独立」について、具体的に憲法の条文で以下のような内容が定められます。
罷免事由の限定
国の顔色をうかがっていては、公正な裁判が行えるわけがありません。そこで、よほどのことがなければ裁判官は辞めさせられることはありません。「よほどのこと」というのがこの3つです。
- 心身の故障のために職務を執ることができない場合(日本国憲法第78条前段)→裁判官の職務ができない状況ならば罷免されても仕方ない。
- 弾劾裁判による罷免(日本国憲法第64条)→詳しくは日本国憲法第64条を参照。「よほどのこと」の範疇。
- 最高裁判所裁判官の国民審査(日本国憲法第79条第2項)
行政機関による懲戒の禁止
辞めさせられる場合というのは限定されています。裁判所以外の国家機関から裁判官が懲戒される(反省を求められたり場合によっては辞めさせられる)ことがあっては裁判官はビビってしまう(委縮する)ので、これはできません(日本国憲法第78条後段)。
報酬の保障
さらに、裁判の結果によって裁判官の報酬が減らされるかもしれないとなったら、やっぱり裁判官は委縮してしまいますね。憲法や法律には従わないともちろんダメですが、このように裁判官の身分はとても保護されています(日本国憲法第79条第6項、第80条第2項)。
ちなみに、裁判官の報酬の減額規定とよく比較されるのが国会議員の歳費減額についてです。それについては、日本国憲法の条文で言えば、第51条に係る問題です。ここで復習をしておきましょう。
裁判官の独立に係る日本国憲法の条文
最後に、上に掲げた憲法の条文を列挙してみます。
弾劾裁判
第六十四条
リンク先を参照
心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合
第七十八条
裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。
国民審査
第七十九条第二項
最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
相当額の報酬
第七十九条第六項
最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
第八十条第二項
下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。